4月20日(土)、21日(日)、28日(日)に、当法人の主催にて貴重なヴィンテージワインを味わう「特別テイスティングイベント」を開催しました。

以下にご紹介するワインは私自身が北海道ワイン株式会社に在籍(2000-2013)していたときから慈しみ、熟成に耐えると判断したもの。今年が同社の設立50周年で私も独立して干支がひと回りのタイミングでもありますから飲んでみるかと、急に企画したイベントですがご案内した参加者には喜んでいただき、私どもにとっても体験を共有する有益なものとなりました。

 

 

また、初日と二日目には、当時これらのワインを醸造していた古川準三氏(元・北海道ワイン株式会社 取締役製造部長)にテイスティングした印象の報告などの連絡をしていたのですが、なんと最終日には古川氏がセミナーに参加され、自ら解説していただくという栄誉もいただきました。

私にとっても古川氏とテイスティングや対談をご一緒するのは本当に久しぶりで、最終日前日の夜は興奮で眠れないほどでした。

 

会場はワインクラスター北海道のメインオフィスである小樽運河ターミナル内「北海道・ワインセンター」。歴史的建造物の素敵な雰囲気とリーデルグラスをはじめとする備品、設備を活かし、区切られた特別スペースで観光の方や周囲からの羨望の眼差しを感じながらテイスティングセミナーを実施しました。

 

 

【この3日間で抜栓したワイン】

1988 石狩ヴァイスブルグンダー

1991 石狩シュヴァルツリースリング

1991 完熟遅摘ペルレ×2本

1993 完熟遅摘ケルナー

1994 北海道限定ペルレ

1998 おたるセイベル13053

1999 おたるツヴァイゲルトレーベ×2本

2000 おたる初しぼりミュラートゥルガウ×2本

2000   北海道限定バッカス

2000 おたるデラウェア

 

こうした古酒は抜栓してすぐに酸化する恐れもあることや澱が舞うこともあるので、グラスワインのような小出しが出来ません。5人〜8人が集まることで開けることが出来るのも大事なポイントです。
1つのワインにつき30分の解説をしていますが、blogではざっくり簡潔に書きます。

 

4月20日のラインナップ 新酒として醸造された24年前の「おたる初しぼり」ミュラートゥルガウからスタート。一般的に「新酒」も「ミュラートゥルガウ」も早飲みで熟成しないという認識を瓦解させました。この日のメインは「1991 石狩シュペートブルグンダー」です。ムニエのドイツ名であるシュバルツリースリングの説明、私が2004年頃にテイスティングして古川氏に質問して教えてもらったことなどをお話ししました。

 

4月21日のラインナップ(右端は2019年に開けた「光芒 1999ツヴァイゲルトレーベ」の空瓶です) 前日と3種類は同じ構成にしていますがボトルのコンディション(特に赤ワインの澱の沈み具合)が違っていました。

この日のメインは「1988 石狩ヴァイスブルグンダー」です。石狩という名前にまつわるエピソード、ヴァイスブルグンダーのその後の変遷、私自身このワインの20年振りとなるテイスティングは感慨深かったです。

 

4月28日①  2000年「北海道限定バッカス」 余市町産バッカス100%で醸造。この品種は当時の北海道でミュラートゥルガウ、ケルナーに続く植え付け面積3位の品種でした。

 

4月28日② 1994年「北海道限定ペルレ」 90年代では94年と99年がグレートヴィンテージであり、特に94年は私が入社前にすべて売り切れていたので飲むことも出来なかったヴィンテージです。ペルレはゲヴュルツトラミネールとミュラートゥルガウの交配種ですが、グリ系の色合いや甘い香りなど、ゲヴュルツトラミネール的なキャラクターの品種といえます。

琥珀色を帯びた濃いゴールド、なめらかで粘性があり、輝きが強いです。ドライフルーツ、ハチミツ、アプリコット、ボトリティス(貴腐)、黄桃のコンポートの香りがあり、香りのボリュームこそ弱まっていますが持続性はしっかりしていてワインが生きていることを実感させました。「生(き)葡萄酒」という表記に込めたこだわり、非加熱だからこそ劣化しないことが現代になってはっきりと解ります。

ペルレは果皮が薄く、房も小さいために農家に推奨されることはなく、2000年代に入ると抜根されて栽培は消滅しています。

 

4月28日③ 1998年「おたるセイベル13053」 私が北海道ワイン㈱に入った当初、赤ワインの生産割合は2割くらいしかなく、赤用の品種としては、セイベル13053とツヴァイゲルトの2種類のみという感じでした。セイベルは色も薄く、「熟成させると化ける」と言われながらも製造後すぐに出荷し、熟成を待つ余裕もなかったので今回はこれもテイスティングするのが楽しみでした。前の週に2本開けた「1999ツヴァイゲルトレーベ」に比べると、ヴィンテージ的にも品種的にも敵うはずもなく、やはりセイベルの限界を感じずにはいられませんでしたが、劣化することなくまだ飲める味わいでした。

 

4月28日④ 1993年「完熟遅摘ケルナー」  この年は「平成の米騒動」となったほどの冷夏、水稲に関しては作況指数74という凶作の年です。積算温度もこの50年でもっとも低く、このワインも完熟遅摘を待って収穫しているはずですが、他のヴィンテージの完熟遅摘シリーズとは異なった印象です。ケルナーなので林檎等の香りもありますが、熟成のなかにメープルシロップ、そして乾燥したオレガノやタイムなどの痩せた、植物系の香りがあるのは冷夏であったことを彷彿とさせました。

 

準備や抜栓にあたっては大変緊張しましたが、すべてのワインのコルクが途中で折れることもなく開けることが出来ました。当時の38㎜の圧搾コルクが持ち、ブショネもなかったこと自体が奇跡のようでもあります。

 

どのワインも保管状態、熟成状態ともによく、色調や香り、味わいを2時間かけてゆっくりと楽しみました。初しぼりであっても24年を経て熟成していますが、まだ寝かせられたかもしれません。

 

私どものセラーでもっとも古く、1本しかないものが1988石狩ヴァイスブルグンダーです。これは2004年にテイスティングしたときに素晴らしいワインと感激しましたが、そこから20年。この写真からも素晴らしい色調やなめらかさ、熟成感が伝わるでしょうか? 私の目から涙が出そうなほど風格を備えた外観と香り、味わいはまったく劣化していませんでした。

 

24年~36年も前につくられた日本のワインがここまで持つということに各日の参加者一同が驚愕するとともに、私自身にとって凄い経験になりました。 

 

 

今回の「特別テイスティング」イベントに用いるすべてのワインは1週間前にセラーから出して、冷暗所で瓶を立てておきました。1週間も瓶を立てるのは酒石や澱を沈めることと、ずっと横に寝かされたワインを立てることで生じた液体へのショックからダメージを回復させるためです。

 

表ラベル、裏ラベル、肩ラベルの表示にも歴史や時代を感じさせるエピソードがあり、私が受け継いできた知識や情報を知っていただく場になったことも嬉しいです。

 

また、セラーでは長い年月にわたり定期的にガラス瓶越しに色調や濁り、液面の高さ、コルクやキャップシールの状態をチェックしてきましたが、いかにも年代を経てきたことを物語る瓶やラベルのホコリをどうするかは判断の分かれるところです。

私は汚いものをテーブルに載せたくないことや、雰囲気と価値を大切にするためにホコリを払いました。

 

とても綺麗でボトル越しにもワインがクリアで健全であることが伺えますね。少し酒石が出ているものもありましたが、むしろそれも時代や産地特性を物語るものでした。

 

「事前予約制」、「会員限定」(今回はNPO会員と道新文化センター受講生)での開催となりましたが、小樽運河ターミナルの雰囲気に合った特別感満載の体験型セミナーが出来たことが嬉しいです。

以上、長文駄文にお付き合いくださり、ありがとうございました。

今後も小樽運河ターミナルでの取組みとして月に1回くらい、このような特別テイスティングセミナーをやりたいと考えています!