じつは連載20回目にして、2つの大変な失敗をしてしまいました…。

締切を3日も過ぎてしまったこと、そして新年から改変となったフォーマットの文字数と行数を勘違いして倍の原稿を書いたことです。

大いに反省していますし、原稿のニュアンスが変わってしまったことも私自身の招いた結果です。自分への戒めと記念に、当初の原稿と合わせてblogに掲載させていただきます。

 

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(もともとの原稿)

余市駅前の老舗旅館で昼食を食べる機会がありました。いまやワインの産地としても注目を集める余市ですが、食材も豊かな土地柄。

この日は仕事もあるため残念ながらワインを飲みませんでしたが、稀少な銘柄を含めて余市のワインを立派なグラスで提供もされています。寒ビラメとマゾイ、ハマチの刺身にタラの揚げ出し、吸い物は細目昆布に柚子の香りなど、余市の旬の食材に京都で修業したという和食の技法が相まって、季節や地域の魅力を感じさせてくれました。

そして見ほれたのが形状や絵柄もさまざまな器の数々。有田焼や備前焼、箸置きに至るまで美しく、盛り付けられた料理を引き立てます。室内の音や香り、五感すべてを研ぎ澄ませて、じつに美味しくいただくなかで、自分自身がもっと和食や器について知りたいと気づきを得る時間にもなりました。

そうだ、京都に行こう!と思い立つと同時に、それにはフェリーに乗っていきたいともひらめき、もともと船が好きなこともあってそこから船旅のことばかり考えています。

小樽から舞鶴の航路は乗船したことがないのですが、苫小牧と仙台の航路や小樽と新潟の航路はそれぞれ夜に出港して翌朝に入港します。車を運転しない私がフェリーを使うのは海上を移動しながら食事やワインを味わい、洋上の静けさと闇のなかで星空を見てから、静かで力強いエンジン音とゆるやかな波の揺れに包まれてゆっくり眠れるからです。

翌朝は早く起きて大浴場で海を見ながら日が昇るのを待つのも格別。全国的に寝台列車がほぼなくなってしまった現代において、本州と北海道を結ぶフェリーは夜行で移動できる特別な乗りものともいえそうです。

そしてそれらの航路で嬉しいことは、北海道産のワインをフェリーの売店やレストランで提供してくださっていることです。もちろん海外のワインも素晴らしいのですが、船の行き先や出港地のワインが置かれていることの旅情や、普段とは違う非日常的な雰囲気であればこそ、ワインが似合うというものです。

さらに船に積まれているワインは陸上で保管されているものよりも美味しくなっている可能性もあります。ワインの熟成は一般的に低温で振動のない貯蔵庫でタイムカプセルのようにワインの味わいを封じ込めると思われがちですが、少し温度が高い方が熟成を早めてくれますし、ゆるやかな揺れもそれに役立つと私は思っています。

はるか昔のエピソードとして、フランスのシャトーのワインがインドに輸出されたものの売れずに再び赤道を通過してフランスに戻ってきたものが美味しくなっていたという逸話があります。高めの温度や揺れがワインの熟成を促進したのでしょう。

さて、船に乗って本州に行くのなら、少し先になりますが桜の時期に合わせて旅の計画を練るのもいいですね。船旅とワインと花見。北海道の桜の開花に先駆けて、京都や東北の桜を見にいくのも格別と思います。

少しずつ旅や観光も楽しめるようになってきましたので、今年は私もこんな風雅な趣向を凝らしてみたいと思います。

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1月中旬からの忙しさを極めていた時期でもあり、原稿を書いていて(こんなに長かったっけ?)という気持ちがありましたが、校正が返ってきたときに倍の文字数を書いていたことに気付き、こんなミスをした自分が嫌になりました…。

 

原文では「みなさま桜の時期に船旅でワインを楽しみませんか?」というニュアンスでしたが、掲載は「私は京都に和食の勉強をしに行ってきます!」に変わってしまいました。こういうときに限って「阿部さん京都に行くんですね」と読んでいる人の多さや反響が嬉しくも気まずいものになります。あー、これは京都に行かなくては…