高齢者雇用-②雇用延長と引き換えに、処遇切り下げで失う人財価値

 

■雇用延長進むも、処遇切り下げがセットに 

 高齢者の雇用延長の取り組みは着実に進んできていますが、一方で雇用延長に伴い、処遇が大幅に切り下げられるという問題があります。一般的に高齢化及び継続雇用に伴う処遇の低下は、経済面の切り下げである賃金カットと、地位の切り下げである役職定年に分けられます。


・継続雇用高齢者従業員の4分の3が賃金切り下げに否定的
  経済的処遇の切り下げである大幅な賃金カットについて、労働者はどう捉えているかを見てみましょう。(独)労働政策研究・研修機構の調査では、従業員に賃金の切り下げについて不満が多いことが分かります。回答では、否定的意見の合計割合は75.1%、肯定的意見の合計は68.1%と否定的意見が上回り、理由として次の項目が挙げられています。 
                                                                     (%)
仕事がほとんど変わっていないのに、賃金が下がるのはおかしい            21.9
会社への貢献度が下がったわけではないのに賃金が下がるのはおかしい    14.9
仕事の責任の重さがわずかに変わった程度なのに、下がりすぎだ           11.3
在職老齢年金や高年齢雇用継続給付が出るといって下げるのはおかしい    10.1

出所:独立行政法人 労働政策研究・研修機構「60代の雇用・生活調査」(2015年7月) 

・役職定年は従業員の自尊感情を傷つけ、モチベーションを低下させる

 次に地位の低下がもたらす影響について見てみましょう。 パーソル総合研究所/法政大学 石山研究室が実施した「ミドル・シニアの躍進実態調査」では、役職定年がもたらす意識や行動の変化について分析しています。
 役職定年がもたらす行動レベルの変化では、次の項目が上位を占めています。

「重要な仕事は若手や中堅メンバーに譲るようにしていた」          (26.7%)
「自分にどんな役割が求められているのか、よくわからなかった」    (26.7%)
「新しいことに挑戦しなくなった」                                   (24.7%)

 この結果から、同調査では『役職定年制度』は、躍進するミドル・シニアに共通する行動特性である「仕事を意味づける」「まずやってみる」の実践に対してブレーキをかける「負の効果」を指摘しています。つまり、役職定年が、成果や変革につながる積極的行動やチャレンジを阻害する可能性があるということです。 

 意識面の変化では、役職定年によって「自分のキャリアと向き合う機会になった(30.3%)」「プレッシャーが無くなり、気持ちが楽になった(30.3%)」などポジティブな変化を経験する人も一定数いる一方で、それ以上にネガティブな変化を経験する人の割合が多いことを指摘しています。
 役職定年がもたらす、具体的な意識の変化については、次の項目が上位を占めています。

「仕事に対するやる気・モチベーションが低下した」            (37.7%)
「喪失感・寂しさを感じた」                                    (34.3%)
「会社に対する信頼感が低下した」                            (32.3%)

 出所:パーソル総合研究所・石山恒貴(2017)「ミドル・シニアの躍進実態調査」

 役職定年を経験者の生の声として「同期でトップ出世を果たしてきたのに、なぜ役職をはく奪されるのか。疑問と喪失感で夜も眠れない日が続いた」(58歳・男性・卸小売業)との意見が引用されていますが、役職定年者の象徴的な感想と言えるでしょう。
 興味深いことに、同調査では、年収のダウン幅の大きさと、役職定年後のネガティブな変化には有意な関連がなく、こうした結果から、年収ダウンの差が、役職定年後のネガティブな変化の差をもたらす主たる要因ではないと結論付けています。
 すなわち、役職定年は年収のダウン幅に関わらず、従業員の自尊感情を傷つけ、モチベーションを低下させる可能性が高いと推論できます。
 これは従業員の幸福度を大いに損なうと共に、企業の人材価値を収縮させることになり、非常にもったいないことです。高齢従業員の幸福度を高めると共に、企業の有する人材の潜在的可能性を最大限引き出す、 win-win の高齢者雇用が実現することを切に期待します。

 

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(松島 紀三男 イーハピネス株式会社 代表取締役) 

 

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