台湾華語の「三八(sānbā)」考 | 台湾華語と台湾語、 ときどき台湾ひとり旅

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台湾ドラマを見ていると、それこそ1話につき1回くらい出てくるほどの頻出スラング、「三八(sānbā)」。これまで色々書いてきたので一つにまとめてみました。

中国では国際婦人デー(3月8日)由来説、義和団事件後の八国軍侵攻由来説、色々あるようだが、少なくとも台湾で使われている「三八(sānbā」に関して言えば、由来はもちろん台湾語の「三八sam-pat/さmバッ」である。

意味はもともと「ふざけた、バカな、おきゃんな、オテンバな」といった意味の主に女子に対する悪口。でも今は、女子から男子にも或いは性別にかかわらず、何なら人間に対してじゃなくても(笑)使われる。

『真愛找麻煩』ではイージエがウェイシャンに向かって「ばかね♡」みたいな感じで優しく言ってた。『君に恋した362日』ではミャオルーが宥勝くんに、『台北暮色』では主人公の女の子が飼ってるインコに優しく「三八啦(sānbā la)」と言ってた。

どうも今は悪口要素は少なくなり、「ばかね♡」「ばかだなあ♡」「何言ってるの♡」みたいな使われ方をするようである。お礼を言われての返しにも使われる。そしてその場合は

 三八啦(sānbā la)💗

と、最後に「啦( la)💗」がつくことも多い。

さて台湾語の「三八(sam-pat)」は古い言葉で、日本植民地期に出版された『台日大辞典』(1983年に国書刊行会から復刻版『台湾語大辞典』として刊行にも載っている↓

 三八(サム パッ)阿呆。剽軽。馬鹿。
 三八話(サム パッ ヲエ)剽軽な話。馬鹿気た話。
 三八猴(サム パッ カウ)馬鹿野郎。案本丹。剽軽者。

辞書を見るとその時代にはまだ女子への悪口とは限らなかったようだ。『台語溯源』(亦玄/時報文化出版/1988)には、国際婦人デーがたまたま3月8日だったので、女子をさして言う悪口になってしまったと書かれている。(国際婦人デーもあながち無関係ではなくこれがまたコトをややこしくしている。)

その『台語溯源』(時報文化出版/1988)では「台湾語の三八の起源には諸説あるが確実なものはない」と書かれている(p311〜313)。研究者も調べてはいるけど確実な証拠はないのだそう。

台語溯源』に書かれている説は

1)掛け算説
つまり、3☓8=24、で昔台湾人は、ボーッとしてるおバカさんに対して「毎日(何もせずに)(気づいたら)24時やん」とからかったそう。

2)足し算説
3+8=11。「牌九」という一種のカルタの計算方法では10点を超えると10点は計算されず端数だけが得点になるらしい(間違ってたらすみません!)。だから11点は結局1点にしかならず、おバカさん。

3)字音由来説
上記2つと異なり、数字とは関係ない。「三八」の音と「山伯(san-peh)」の音が近いからという説。、それぞれ白話音だとsaⁿpeh
なので確かに近い。梁山伯さんの何かやらかした事件にかけて、おバカさん。

でもこの3ついずれも説得力に欠けると、亦玄先生は書いている。先生のイチオシの説は呉槐先生による説。呉槐先生の書いた『河洛語中唐宋故事』ではすでに「粗野で偏屈なことを三八と言う」として、その由来も詳しく解説されている。時代は宋代にまでさかのぼり……。

北部にある妓女がいた。美しいのにお転婆で、みんなが彼女を「張八」と呼んだ。ある時、寇準という北宋の著名な詩人が、これまた詩人の魏野という人に詩を作ってくれるよう頼んだ。

魏野が作った詩が

君為北道生張八
我是西州熟魏三
莫怪尊前無笑話
半生半熟未相諳

で、ここから「魏三張八」→「三八」が生まれた………らしいのだが、ま、よくわからない。この詩を引用した呉槐先生も「多分、そう」と言ってるし、この説を推している亦玄先生も「結局はよくわからない」と言ってるし、そういう感じです。