時給で働くことの意味
佐江照さんへの風当たりはどんどん強くなっていきました。
彼女は、時給で働いています。
とはいえ、彼女が任されている仕事は事務系ソフトを使った会計作業に加え、語学が堪能であるため外国との連絡、メールの作成、そして、部署の雑用とかなり多くの仕事を要求されます。
それは最初から派遣先が求めていた能力だし、その能力に見合った報酬を支給するということで、佐江照さんの時給は2千円と、かなりの好条件です。
しかも、働き始めた途端、部長は彼女の総合職としての能力に気づき、企画会議への参加、企画書の提出など、やる仕事が日に日に増えてきました。
そんなある日、
次長から、半月後の休日に、出勤をしてほしいとお願いされます。
「来月の第1週の土曜日に取引先との打ち合わせが入ったので、できればその日、出てもらって手伝ってほしいんだけど。もちろん、どこかで代休を取っても構わないから」
佐江照さんは、その翌週の水曜日に代休を取ることを決め、了承しました。
しかし、当日の土曜日の朝になって突然次長が、
「打ち合わせがキャンセルになったから、今日は休んでください。水曜日の代休はそのまま休んでもらって構わないから、お願いしますね」
と、いう連絡が入ったのです。
しかし、翌週の月曜日、会社に行くと根田見さんから、
「土曜日は結局、働かなかったんだから明後日の水曜日の代休は出勤してくださいね」
そう言われたのです。
しかし、佐江照さんは次長から休んでいいと言われていたし、予定を入れてしまったので、
「すみません。予定を入れてしまったので出られません」
そう言いました。
「あ、そう。仕方ないわね」
そこは根田見さん、すんなり引き下がりました。
その後、佐江照さんに派遣会社の担当者から連絡が入り、
「土曜日は出るつもりにしていて当日キャンセルが入ったんですよね。それに半月前に変更の打診もありましたよね。その場合は、会社側の都合で佐江照さんが1日働けなくなったので、土曜日のお給料はきちんとお支払いしますのでご安心ください。会社との契約もそのようになってますので」
と、言われたのです。
見て見ぬ振りしてるけど、みんなパワハラの存在を知っている。
しかし、その翌日のことです。
違う部署の全然話をしたことがない女性が、佐江照さんに声をかけてきたのです。
「ちょっといいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「伝えといたほうがいいと思って・・・。実は、根田見さんがあなたの悪口をいろんな人に言っ
てるみたいだけど大丈夫?」
「いえ・・・・どんな?」
「あなたが『代休を取ったのは会社の都合なんだから、その分の給料を払え』って派遣会社に言いがかりをつけてきたって。『大人しそうに見せてるけど、裏ではそういうことを平気でやる人だよ。だから気をつけたほうがいい』って」
「ひどい・・・・・」
「やっぱり根田見さんの作り話なんですね?」
「もちろんわたしは請求してないし、そんなこと言ってません」
「だと思ってました。わたしも根田見さんにターゲットにされた経験があるから。女子社員は大抵一度や2度はやられているので、『ああ根田見さんの今のターゲットは佐江照さんなんだ』って女子社員はわかってますよ」
「そうなんですね・・・」
「でも、男性にはわからないんですよね。みんな根田見さんの話、鵜呑みにしちゃうら・・・。『少しは根田見さんの悪意もあるだろうけど、火の粉のないところに煙は立たないから佐江照さんにもそれなりの非があるんだろう』って。男って女の怖さを全然わかってないですからね。火の粉があろうがなかろうがやる奴はいるってことを」
「そうですね・・・」
「辛いだろうけど負けないでね。女子社員はわかってるから」
「ありがとうございます」
だからと言って、誰か女性社員が矢面に立って根田見さんに忠告してくれるわけでも一緒に抗議をしてくれるわけでもありません。
火の粉が自分に降りかかることだけは誰もが避けたい。
あくまで、対岸の火事は対岸の火事のままで、対岸から、
「気をつけてねー」
「逃げてー」
と、声をかけるだけ。
それでも、佐江照さんには励みになりました。
結局、会社内では自分一人で戦うしかないけれど、
パワハラを受けていることをみんなが知っている。
そうなんです!
みんな見てぬふりをしているだけ。
みんなパワハラの存在を知っているんです。
佐江照さんは派遣会社にこのことを伝えました。
【一つ一つのことをしっかり人に話すということも、心を折らない一つの方法です】
派遣会社の担当者は、
「私は佐江照さんの土曜日の日給分を会社に請求書を送っただけなので、根田見さんとは直接お話はしてませんよ。それは根田見さんの嘘ですね」
と、教えてくれました。
「わかっています」
「しかし、根田見さんの態度は明らかに”変”ので、これ以上ひどくなったら何か手を打たなくてはなりませんね」
派遣会社が何か手を打つことは実際にはないだろうということはわかってました。
でも、担当者がそう言ってくれるだけでも佐江照さんには励みになります。
つづく
