レスキュー女子es番外 『料理でコーチング』 -126ページ目

先輩からの執拗ないじめの始まり

 

 

 

わたしが入社する直前の3月、銀行が突然「総量規制」を宣言してバブルは弾けるわけですが、わたしの会社にその影響が出始めたのが、入社1年目の秋でした。

 

 

 

 

人事異動で、全社員、営業になって、自社が保有している全てのマンション、土地を売りさばくことになったのです。

 

 

 

 

わたしもそれまで土地買収の部署にいたのですが、マンションのモデルルームに常駐して、来客したお客様に買っていただくための営業をしなければなりません。

 

 

 

 

そうしないと、会社が潰れてしまうのです。

 

 

 

 

 

社員は皆、必死です。

 

 

 

 

銀行がお金を貸してくれないので、保有しているマンションを一刻でも早く売らないと借金がどんどん膨らんでいきます。

 

 

 

 

 

まだ、マンションの立っていない更地の土地は、そのままで売れれば問題ないのですが、工事が始まっている物件はさっさと完成させてさっさと売らないと日々、借金がかさむのです。

 

 

 

 

 

そのためには、価格を下げなければなりません。

 

 

 

 

 

工期も短くしなければなりません。

 

 

 

 

 

結果、見えないところのクオリティを下げなければなりません。

 

 

 

 

 

当然、価格が下がる分、質も下がります。

 

 

 

 

 

でも、当時の異常な高値を考えると、来客したお客さんは、

 

 

 

 

 

「最近やすくなったなー」

 

 

 

 

と、感心しています。

 

 

 

 

 

雑誌やCMも、

 

 

 

 

 

「いまがお買い得」

 

 

 

 

 

と、宣伝しています。

 

 

 

 

んなわけないのに。

 

 

 

 

 

もちろん、わたしは、いまがお買い得ではないことを知っています。

 

 

 

 

 

 

 

価格は待てば待つほど下がるのです。

 

 

 

 

 

 

不動産業界の人間はみんなそのことを知っていますが、それがバレるとマンションは売れません。

 

 

 

 

 

行き着く先は、自分たちが路頭に迷う。

 

 

 

 

 

だから、みんな血眼になって売ります。

 

 

 

 

 

でも、わたしは、売ることができませんでした。

 

 

 

 

 

 

もともと、能力がなかったのだから、売りたくても売れなかっただけかもしれませんが、そもそも、真剣に生きていませんでしたから、

 

 

 

 

つぶれても路頭に迷ってもいいか…。

 

 

 

 

 

そういう思いもありました。

 

 

 

 

 

だから、来客したお客さんには、同僚や上司が近くにいない場面では、

 

 

 

 

 

 

「いま、買うと必ず損をします。

価格も安く見えるカラクリがたくさんあって、全然安くありません。

買うべきではありません」

 

 

 

 

 

 

 

そう言い続けてました。

 

 

 

 

 

当然、売れません。

 

 

 

 

 

それでも、わたしを信用しないお客さんが4名ほど買ってしましたが…。

 

 

 

 

 

 

そんなわたしだから、当然、上司も先輩も、

 

 

 

 

 

「もっと頑張れ!」

 

 

「大丈夫だよ。ぜったいに売れるよ」

 

 

 

 

 

と、激励してくれます。

 

 

 

 

 

 

でも、一人だけ、まったく違う先輩がいました。

 

 

 

 

 

 

 

東大卒のエリートA先輩でした。

 

 

 

 

 

Aさんだけは、わたしのことを応援したりしません。

 

 

 

 

 

 

「だって、おまえにはそんな能力ないもんな〜」

 

「そもそも売る気ないんだろう」

 

「バカはいくら努力してもバカだから努力するだけ時間の無駄だよ」

 

 

 

 

 

 

 

いま思うと、Aさんは、わたしという人間を完全に見抜いていたのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の言うことは、いちいち事実。

 

 

 

 

 

 

なにひとつ言い返せないのです。

 

 

 

だから、腹も立ちません。

 

 

 

 

 

ただ、Aさんがそういうことを言うたびにわたしをかばってくれる先輩がいて、その先輩のために、

 

 

 

(自分も少しは頑張らねば…)

 

と、思ったり、

 

 

 

(Aさんを見返してやる)

 

と、その時だけ本当に悔しがったり。

 

 

 

 

 

そのうち、Aさんはことある毎にわたしをお酒に誘うようになり、わたしのことを、

 

 

 

 

「おい!飲み会担当!」

 

 

 

 

と、呼ぶようになりました。

 

 

 

 

「おまえに仕事をする資格はない。

仕事をするだけみんなに迷惑がかかる。

就業中に寝てていい。

おれが許す。

夜のために力を蓄えておけ」

 

 

 

 

 

いつも、そう言われます。

 

 

 

反論できませんでした。

 

 

 

 

事実でしたから。

 

 

 

 

 

 

でも、正直、この言葉にはさすがのわたしでも傷つきました。

 

 

 

 

傷つく時というのは、

 

 

 

自分でもうすうす気づいているんだけど、それは、自分の最も忌み嫌う部分で、

普段、意識の奥底に隠してあるような恥部の部分に気づかれた時、

そして、

そのことを言われた時、

そのことを皆にばらされた時です。

自分の目の前で白日のもとに晒された時です。

 

 

 

 

わたしの中の、なにかが、この言葉によって、確実に壊れていきました。

 

 

 

 

 

その宣言どおり、夜になると必ず連れまわされ、最低3軒はハシゴし、わたしはグデングデンになって、翌朝はゲロを吐きながら会社に行く。

 

 

 

そして、

 

 

「営業に行ってきます」

 

 

と、嘘をついて、公園で寝る。

 

 

 

 

 

 

モデルルームで寝るという感じになっていきます。

 

 

 

 

 

もちろん、お酒代は自腹ですから、お金も底をつきます。

 

 

 

 

逃げたくても、わたしが終わる時間を見計らうようにAさんは現れてわたしの椅子の後ろで、待ち構えます。

 

 

 

 

 

お酒を飲んでいる間は、Aさんは、いかに自分が優秀で上司を含めた周りがバカで、その中でも飛び抜けたバカがわたしだと言い続けるのです。

 

 

 

 

「どうせ辞めるんだろ」

 

 

「おまえみたいなバカと同僚だと、おれまでバカだと思われるだろ。早く辞めろよ」

 

 

「おまえ、よく生きていて恥ずかしいって思わないな」

 

 

 

 

 

 

仕事が終電間際までかかることがあっても、帰してはくれません。

 

 

 

 

 

そんなときは、会社の近くのカプセルホテルに泊まります。

 

 

 

 

 

 

だんだん、自分の思考と精神がおかしくなっている自覚を覚えるようになります。

 

 

 

 

 

無意識のときに、

 

 

 

 

「どうやったらAを貶めることができるだろうか…」

 

 

 

 

などと、考えるようになったのです。

 

 

 

 

 

やばい、このままだと、本当になにかやってしまいそうだ…。

 

 

 

 

 

そこまで、追い込まれていきました。

 

 

 

 

 

そして、その日がやってきました。

 

 

 

 

 

支社あげての打ち上げの日。

 

 

 

 

 

一次会が終わって外に出た瞬間、わたしの上司が、わたしのところに来てこう言ってくれました。

 

 

 

 

 

「おまえ、連日Aの飲みに付き合わされているんだって?

きついだろう。

あいつ飲み方めちゃくちゃだからな。

今日はもう帰れ。

Aにはおれのほうから言っとくから」

 

 

 

 

 

そう言ってくれたのです。

 

 

 

 

 

わたしは、その瞬間、耐えていたものが一挙に崩れ、涙が溢れ出てきました。

 

 

 

 

「ありがとうございます。ありがとうございます」

 

 

 

 

 

そう挨拶して、みんなの輪から離れ、一人駅に向かって歩いていると、後ろから声がしたのです。

 

 

 

 

 

「おい!飲み会担当!ふざけんな。逃げんじゃねえよ。飲み行くぞ!」

 

 

 

 

 

後ろから二の腕を掴まれた瞬間でした。

 

 

 

 

 

 

その先の記憶が飛び、気が付いたら、わたしは数名の先輩から羽交い締めにされていました。

 

 

 

 

その先には尻餅をついているAがいました。

わたしは、無理矢理タクシーに押し込まれ、同じ寮に住む同期とともに帰路についたのでした。

 

 

 

 

 

 

この一件が、わたしに、

 

 

 

 

もうサラリーマンは辞めよう

 

 

 

 

と、決心させてくれた出来事となりました。

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

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風宏