ツクヨミ「男がいた。
厚いコートに身を潜め
深く帽子をかぶり
俯き
何も希望がなく
一人でなんのあてもなく
暗闇を
彷徨い歩く男。
ずっと何年も何年もそうしてきた。
ある時、気がつく。
このコートでは暑い。
いや、まだ脱げない。
脱いだら絶対に寒い。
脱ぐものか。
またひたすらに行く宛もなくただ歩く男。
しかし、だんだんと
何故か暑くなってくる。
しかし、男は絶対に脱がない。
襟を立て、足早に歩く男。
どこまでいったか
わからないが
歩き疲れ、男は座り込み
そのまま眠る。
どれくらい時間がたったか
風はその男の
実は柔らかな髪の毛を撫でる。
男はそれで目が覚める。
ふとさらに気がつく。
男はずっと花畑を歩いていたことを。
そして、暗闇ではなく
太陽の下を歩いていたことを。
男は太陽を見つめ
やっと微笑みながら降参したようにコートを脱ぐ。
帽子も
中に着ていたセーターも脱ぐ。
そして、
自然と太陽に手を差し出す。
すっと差し出す。
太陽も素直に微笑む
やがて、太陽から細い腕がみえ
一人の女性が男の前に現れる
二人は微笑み合い
まるでずっと恋人であったように
お互いを懐かしがり
手を取り合い
今度は二人で歩いていく。
これは
ある女性と男性の本当の話。
大晦日の夜の
男女のお話。