不完全な切り紙細工 -30ページ目

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある



 お母さんカイツブリのちょっとだけ厳しい躾に見とれていたら

 そこから数メートル離れた水面に

 バシャっと浮き上がってきた潜水艦

 じゃないカイツブリ

 けっこう眼光鋭い印象で

 水を蹴散らして浮き上がってきた

 こういうシーン

 池ではそこここで繰り広げられているはずなのだが

 そして確かに起きているのだが

 残念なことに今まで潜ったり浮き上がったりする瞬間は

 なかなか撮れず未熟な腕を嘆いていたのだが

 何と浮上する瞬間を捉えたぞ!

 




 でもって

 何だか不思議な格好をしている

 これは水から上がったときの休息動作なのかな





 と思いきや





 おおお また首から水にぐいっと

 池の水がミルクの王冠みたいに頭で押しのけられる

 そうして更に





 はははは

 頭潜って尻潜らず・・・

 ご覧いただけるでしょうか

 カイツブリの短い尻尾(というか尾羽)

 なんだかキンクマ・ハムスターのシッポみたいにチンマリ


 そうして更に

 バラストよおし

 潜水全速前進




 ちょっと写真でも見にくいけれど

 水の中を写真左下方向に頭が進んでいるのが微かにわかる

 そして十数秒





 ざざざざっざざざ
 
 浮上よおし!

 水飛沫というか水滴といったほうが良さそうな

 まあるく水を飛び散らせ

 カイツブリが戻ってきた



 そしてよく見ると

 おお 嘴に何か獲物らしきものが

 透明な感じがする

 え 水草とか食べるんだっけ?





 いえいえ

 水草みたいに透明感あふれていたけれど

 獲物はどうやら川海老らしい


 この池には海老もいたのか

 (まあ 居てもおかしくはないのだが

  水にも水辺直近にも人間は入れないので今日初めて見た!)






 なんでくわえて泳いでいくのだろう

 さっさと呑み込めばいいのに


 いえ

 そうではありませんでした

 泳いでいく先にはさきほどのカイツブリの子どもが

 お腹を空かして待っていたのです

 その後方には先ほどのお母さんカイツブリと子どもが一羽

 多分のその一羽はお母さんにくっついていて

 まだ一人泳ぎがおぼつかない方の子どもなのでしょう

 そうやってお母さんの側にばかりいると

 みんなもう一羽に食べられてしまって

 また成長が遅れるのかもしれません

 鳥の人生も小さい時からけっこう厳しいのです

 だからこそお母さんはあんなにブルブルしていたのでしょう


 「ほら 海老を獲ってきてやったぞ」

 「わああい わああい いいな いいな」





 「ほら うまく受け取れよ」

 「うん バクっ うわっ」

 「ほらほら 落ち着いて食べないと」

 「ぐ ぐぶ ぐぶ」






 「あ あ 入り切らないよ うえっ」

 「あああ だからゆっくり呑み込むんだよ

  うまくできるようにならないと

  みんな 鵜に呑み込まれちゃうことになるぞ」

 「うっ」





 と

 ドタバタしている間に

 どうやらせっかくの海老を水の中に落としてしまったらしい

 どうしてわかるかって?

 ほら 新しい水の輪が

 二羽の間にできているでしょう?

 その辺りに落としてしまったらしいのです





 でもお父さんはどうやら

 それを見越していたかのように

 さっと海老を拾い上げ

 また子どもの口に渡してやるのでした

 そして今度は何とか無事に呑み込めたようです

 (海老にとっては無事どころではありませんでしたけどね)





 「ああ 食べた食べた

  あれ お父さん たった一匹しか獲って来なかったの?」

 「えええ これでも頑張ったんだけどなあ」

 「もっと もっと」




 「よしよし じゃあまた漁に行ってくるからね
 
  できれば自分でも捕るんだよ」

 と言ったかどうかは知りませんが

 そういうお父さんをお母さんカイツブリが見送っているように見えたのでした





 と
 いつの間にか

 童話のような話し方になってしまっていたのでした



 なぜ今日は今までなかなか撮れなかった
 カイツブリの潜水浮上シーンが撮れたのか
 しかも獲物獲得まで

 鷺のこういう漁のシーンは何度も撮っていたのだけれど

 カイツブリは小さいし潜ったと思うと随分離れたところに浮上するし
 潜るのを待っていると意外に頻度が少なくて
 で注意力が落ちた頃になってまた潜水

 それでなかなか撮れなかったのだが
 今日はちょっと嬉しい成果に

 それは幸運もあったのだけれど
 実はいつもと大きく違う点がある

 それはカイツブリが今まさに子育て中だという点だ

 子どもはいつもお腹を空かして待っている
 たくさん食べなければ大きくなれないし強くなれない
 小さく弱ければ他の生き物の獲物にもなりやすい

 だから親鳥はいつもの何倍
 もしかすると何十倍も水に潜るのだ

 だからシャッター・チャンスが多くなり
 こんな写真も撮れたのだ

 何度も何度も潜って餌を獲る
 そうすることでしか
 生命は受け継がれていかない

 きっとこの一家は極くありふれたカイツブリの一家だったし
 この漁の風景も全く普通の営みだったはず

 でも
 僕は少し以上にそれに感動してしまった

 このありふれたカイツブリの一家の
 ありふれた生活ですら
 いつも生命の危険と隣合わせている

 こうした極めて普通の
 それぞれの生活が静かに保たれていくこと
 それがまず
 平和とか幸福とかいうことの絶対条件なのだと思う

 カイツブリたちは
 自分たちの平和な生活を懸命に営みつづけるだろう

 奢った人間社会がそこから
 このカイツブリの一家から学ぶべきことは多いのではないだろうかと
 僕は本気で思っているらしかった