不完全な切り紙細工 -27ページ目

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

 
 
 夏の朝に

 湿気た線香花火みたいな蝉の声

 ちち ち ちちち ちち ち

 と断続する


 まだ目が覚めきっていない寝ぼけた蝉か

 それとも

 羽化したばかりで鳴きなれぬのか

 朝食を口にしながら

 思わず

 おい がんばれ と思う


 そうしたら急に

 夏が来たことに気づいたように

 耳を貫く声で鳴き始める

 強い夏の音



 時

 それはあるときには

 育むもの



 長い眠りの後に目覚めた夏が鳴き始め

 冷たい麦茶のガラスを握っている

 僕の刹那と蝉の刹那が交歓する