不完全な切り紙細工 -26ページ目

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある



 時は気づかぬうちに過ぎた

 瞬く間にとは言わない

 むしろいつの間にか時は過ぎた

 僕が水辺を歩き始めたのは午後1時を少し回った頃だったのに

 気づけば夕刻の7時を過ぎていた

 僕は茫然と6時間を水辺で過ごした計算になる
 

 緑が満ちた日だった











 雲が湧き上がった日でもあり








 なめらかな水が緑の岸に向かって寄せ続けた日でもあった







 雲居に飛ぶ一羽きりの鷺の空











 風に乗るアジサシの遠い羽











 嵐の前の密度の高い風が緑を揺らし明日の夏を予告する







 でもまだそこそこに

 春の名残り







 花はほとんど見当たらなかったけれど

 緑はすでに勝利を決定的にしていた







 池の面を

 





 熱い風に乗って高い空を

 鳥たちが過ぎていき







 今日

 僕が見たものは繰り返される生命の時間の

 何度となく繰り返される反復の

 ほんのひとつに過ぎなかったけれど

 それでも

 それはおそらくは一度限りの

 二度目のない出会い











 気づけばそれは金色(こんじき)の時







 昼

 銀色に輝いた波は

 金色(こんじき)に

 かけがえのない

 金色に変わって

 一日が終わろうとしていた







 生きた者たちは

 金色の波の向こう

 過ぎた時間に包み込まれて見えなくなった



 水辺を後にしながら僕は考えていた



 すべきことは

 明日は

 何であるべきかを








            今回で「七月の水辺へ」は終わります