夏の夜の道 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

 
 
 夕暮れに住宅街を歩く

 聞き慣れた夕餉の音

 誰か親か祖父母と一緒に風呂に入って
 はしゃいでいる子どもの声と水の音

 機械的なテレビの声

 開けはなされて網戸の影だけの夏の夜の窓

 どこかでドラムを練習するひとがいる

 走り来て走り去る自転車の小さなライト

 蛇行しながら吹いてくる暑い風

 今日最後のピアノ

 暗くて誰もいない道の自分だけの足音

 夕闇の深さを愛して

 見上げれば久しぶりに

 息を呑むほどの星月夜


 この美しい孤独の

 かけがえのない至福