砂の記憶・II | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

 

 砂は濡れて熱かった

 僕たちの間で


 あなたは焼けた砂の上に寝て

 僕は太陽に背を焼かれていた

 あなたは海のように深い息をして

 僕もまたよく似た息をしていた

 潮の匂いのする風が過ぎていくのを

 あなたの産毛が揺れて教えた


 波が絶えず打ち寄せて崩れる音が

 世界からすべての音を奪うのだと

 波音以外のどんな音も聞こえなくなる

 それ以外の理由を僕たちは知らなかった



 砂は濡れて熱かった

 僕たちはその砂をずっと覚えている


 僕たちの間にあって

 いつまでも

 散らばった粒でできた服のように

 あなたの皮膚が僕の皮膚ではなく

 僕の呼吸があなたの呼吸でないことを

 意識させていた砂を


 僕たちにとって

 お互いが別々の生き物であることを

 絶えず感じとり

 その上で望んでそうするのでないならば

 それは僕たちの愛ではないと

 忘我は愛ではないのだと

 砂は僕たちの間で言っていた


 一羽の海鳥が僕たちの上を通り過ぎながら

 高く鋭い声で長く尾を引く歌を歌った

 海は絶えず僕たちに波音を送り

 
 だから僕たちは砂を覚えている

 砂が僕たちを覚えている以上に


 それは不思議な二律背反だったと思う


 僕たちの間で

 お互いを違うものと意識させ続けた砂は

 同じ強さで

 僕たちが離れることを許さなかった

 
 砂が僕たちの愛だった


 あなたがやがて時の経過のすべてを

 肯定するかのように深く息をして

 ゆっくりと立ち上がったとき

 裸のあなたが太陽を遮ってできた

 真っ黒なシルエットのなかで

 砂だけがキラキラと光っていた



 砂のことを

 僕たちは覚えている

 砂が僕たちを覚えている以上に


 僕たちが違う生き物であると

 砂が言い続けた時間よりもずっと後までも