恋と一条の文 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

  

 一条(すじ)の文(ぶん)は恋に似ている

 いろいろな語があって
 それを口にする順番が肝心で
 順番次第で意味が大きく変わることがあり
 どういう順番でも意味の変わらないときもある

 それから文はたいてい
 ピリオドで終わってしまうけれど
 ときには疑問符のまま捨ておかれ
 ときには幸せな感嘆符で終わることもある

 何行たっても終わらない
 長い長い文を書く人たちも多いなか
 半行で終わってしまう文で満足する人もいる

 そんなこんなで文は恋に似ているが
 僕はときどき考える

 甘く切ない恋に似た文を
 死ぬまでにせめて一条だけでも書きたいと
 それほどに表わすものを抱きしめられる文

 それが人であろうとなかろうと
 生きていようと石でしかなかろうと
 遠い日に見たと今日思い出すことができるなら
 恋のように胸をいっぱいに満たすなら








 そう
 初夏の五月の一日は一条の文のように暮れていく




   藤揺らす この風 文(ふみ)に挟んで 送らばや



                   睡鯨子