薔薇を手渡す | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある



『薔薇の思い』







 手渡した薔薇は少し不思議な色だった

 あなたはそれを受けとると

 棘などなかったようにしっかりと握りしめ

 それから何ごとか小さくつぶやいたけれど

 動転していた僕の耳には聞こえなかった

 ほんのり俯(うつむ)き加減のあなたの顔は

 ほんの少しだけ戸惑うようで

 濡れた唇にかすかな微笑みが浮かんでいた

 そのときから

 僕はあなたの声を

 聞き取れなかったあなたの言葉を

 ずっと探しつづけている気がする