今あなたが一論の花を見ているとしよう
少なくても数秒間じっと
けれどその間にもあなたの目は微小な動きをし続ける
人間の目は微動するスキャナーだ
じっと見ているようでも
細かく揺れて花の詳細を探り続ける
あなたを見ている恋人の目の
うるうると濡れて揺れているのとそっくり同じように
目は一瞬を停止させるカメラではない
見ては少しだけ理解しまた見る
それを繰り返している
とてもダイナミックなカメラなのだ
そして
その数秒の後であなたは目を逸(そ)らす
花に飽きたのでも嫌いになったのでもないけれど
どんなに愛しているものであっても
永久に見続けるわけには行かない
目を逸らしてあなたは
今見ている
いや今見たばかりの花をキャンバスに写そうとする
そのときあなたは花についての何かを覚えていたはずだ
脳裏にでなくても
その煌めく網膜にでも焼き付けて
けれどもどこかが記憶の中では不明瞭だ
その細部を見ていなかったのだろうか
ただ忘れただけなのか
いずれであれ
あなたは確かめずにはいられないだろう
それゆえ
あなたはまた花のほうを見る
さっきとは少しだけ違った角度から
そこに花はあるだろう
けれどあなたがほんの少しのあいだ目を逸らしていた間に
もしかして大きな蜂にでも変わっていたら
あなたは驚く
けれど同じ花がそこにあったら
あなたはどうするだろうか
驚くわけもない
そうだろう
そうなのだ
けれど
少し違う角度から見たとしても
それが同じ花だとあなたがわかるのは何故なのだろう
あなたがそれの何かを覚えていたからだ
僕たちが花を見ているときですら
それが「花」だということを
どんな形と色だったかも
あなたは覚えているのだ
ほんの短い間
目を逸らしただけだとしても
そうやって僕たちは
見ているときにすら覚えている
その花の形や色を
全部ではないけれど
それが白い可憐な花だということぐらいは
あなたが何かを見るとき
あなたはその間に何を覚えているだろう
それが花のとき
それが人のとき
あなたは何を束の間
覚えているのだろう
その瞳の色をか
それとも微笑んだ印象を
あるいは
小さく流れ落ちた光る滴(しずく)のことだけを
