出会っては | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある



 見知らぬ人に出会った
 どんな人なのか
 どうして暮らしているのか
 わからなかったけれど

 どういう人なのか
 何を感じて生きているのか
 何をしてきた人なのか
 何を苦しみ
 何を望んでいた人なのかは
 少しだけ
 わかっていたと思っていた

 とてもすべてを分かることはできなかったけれど
 何かを少しだけわかっていたと思っていた

 その感情の起伏を
 出来事に対する反応の仕方を
 どういうとき笑うのか
 どういうとき迷うのか
 どういうとき悩むのか

 でもどういうとき傷つくのかを
 ほんとうには理解していなかった

 その人がただそこで
 笑っているだけで
 いや悪戦苦闘しているときでさえ
 心の芯に小さな柱が立って
 心が支えられていたと思うのに

 ほんとうには理解していなかった

 見知らぬ人に出会った
 どんな人なのか
 どうして暮らしているのか
 わからなかったけれど

 見知らぬ人ではなくて
 以前から知っていた人のように思っていた

 だから
 その人が見知らぬ人に戻る日に
 僕の小さな柱が一本
 折れるのじゃないかと思うほどなのだけれど

 いや
 きっと
 この時間の間に知り合った
 知り合ったお互いの部分だけは
 生きていて

 ずっと僕とともにあるだろう

 だから僕もその人を
 見知らぬけれど知り合った
 そのひとを
 忘れることはないだろう


 涙ひと粒をまた笑顔に変えて
 良き明日を



 





mermaid2gg2