白鷺ホテル | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある

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 夕刻
 鷺たちは休息場所に集まってくるのだった (夕鷺・枝と生きる(2)
 それをずっと見上げていた僕は
 周辺にもっと多くの生き物の気配を感じた

 見回すと
 周遊道の
 僕が過ぎてきた道とこれからの道の両方に
 白鷺の群れ

 それはこんなふうに集まってはまた飛び上がる


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 白鷺が主だが白鷺だけではない
 手すりにとまるとまり方その向きはいろいろだ


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 頭上の枝にも数羽居るのだが


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 そしてこの写真に写っているだけでも7羽


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 僕との距離は数メートル
 来し方も行く先も鷺

 僕はカメラを構えてシャッター音は立てるけれど
 じっと動かずに居る
 鷺たちが僕に気づいていないのではない
 適当に距離は保っているのだが

 夏場にもこれほどの数の鷺を近くに見たことはなかった
 しかも人の通る遊歩道

 この鷺たちのほとんどは右の何かを眺めている
 最初僕はそれに気づかなかったのだが
 何がそちらにあるのだろうかと思って
 その方向に目をやると


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 水に近いところに
 大小の鷺
 (いや正確にはきっとダイサギとチュウサギなのだが)
 何だかお互いに何事か話しているようにも見える

 ここは池のほとりではなく
 池に流れ込む小さな流れのようだ
 あるかなきかの浅い水が見える


 え?

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 何やら動きが激しくなり
 ときどき声も

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 思わぬ白鷺乱舞に目を奪われる


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 もしもこの一帯が鷺たちの夜の休息場所であるならば
 これは仲間が集まった談笑の場か
 それとも宵を楽しむ舞踏会

 さすればこれはあたかも
 白鷺ホテルということになりそうで

 時々僕の頭のすぐ上を超えてダンスに参加する鷺も居た
 羽音どころか翼の切る風が僕にまで届く距離
 時折上げる声もどこか楽しげで

 いったい何が起きているのだろう
 僕は少し鷺たちの僕に構わない素振りに酔っていた


 反対側に今降り立ったこの一羽


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 片足をひょいと上げて胸元にしまい込み

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 冬毛が美しくちょっとばかりゴージャスな
 この鷺に答えを教えてもらおうか

 しばらく何食わぬ顔で
 じっと流れのほうを見ていたが


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 くいと首を伸ばした


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 それからこちらを眺めやる


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 この下にも他の鷺たちのダンス・フロアがあるのだろうかと思ったとき
 前傾姿勢


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 飛び降りた
 さあいよいよダンスの始まりか


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 と思ったのだが
 舞い降りる先には相手なし


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 どうやら目標は

 水の中


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 この全身でのめり込む動きは
 夏場の水の上での漁と全く同じだった
 魚がいるのだ


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 残念ながら瞬く間の出来事で魚の姿は捉えられなかったが
 ぐいと何かを呑み込む動作

 そうかここは
 ダンス・ホールなんかではなくダイニング
 
 で
 こっちはギャラリー


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 もう何処かで食べてきたのか
 なんだか静かに他の鳥の食事を眺めているようだが
 そこはそれ生き物同士
 他にも魚がいる気配を食事中の鳥の振る舞いから察したら
 すぐに食事に参加する者が現れる


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 まあそばで静かに眺めているか
 でなくても少し離れたところで食事を始めればいいのだけれど
 つい
 ひとさまの魚は美しく見えるのか
 すぐ側に寄って「ここ座っていいですか」とか言おうものなら

 はい
 そうなのです
 上にあったあの鷺たちのダンスのように
 声を上げて
 「ここは俺んところだ」
 「いえ私のよ」
 と

 仲良く騒がしくなるわけなのだった

 残念ながら
 美しく舞い踊り相手を探す
 恋の季節というわけではないらしい

 まあそれでも
 みな集まって多少のいがみ合いがあったにしても
 それで鷺たちは深刻に争うことはなく


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 それぞれに生きながら
 それでも何とはなしに群れて生きているらしい


 木の家に住むのなら
 できることならすぐ側にダイニングホールかレストランある方が
 冬場の気持ちも温かくなるということなのだろう

 そう思って見直すと
 ほら上の4番めの写真の左側
 3羽いるうちの真ん中の鷺


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 確かに口に魚を咥えているのでありました


 生きるということは
 生きた者同士の交歓であり
 また
 生きた者同士の命の交換なのかもしれないと

 厳しいけれど
 それぞれがそれぞれに生きてあり
 似た者同士が群れ集う

 もしかしたらこれはやっぱり
 白鷺ホテル

 そういう自然のままに客たちをもてなす
 自然の一画に生まれ出た宿

 人間の世界にもそんなホテルがあってほしいなと思う一方で

 なんだか僕も
 一羽の鷺になりたくなっていた