夕日夕鷺 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 凍てつく強風で水面は波立っていた
 いつもの場所に陣取った鷺も身をかがめるほどだった

 その風の夕暮れ間近
 鷺の背後から赤い陽が射して
 嘴がこころなしか普段よりも橙に染まる







 見慣れた光景だった
 一羽の白い鷺が林の前を飛んでいた
 たった一羽残されたあの鷺だろうか

 冬
 秋の錦はもうそこにはない
 鷺の姿は
 黒ずんだ木々の幹と枝と際立つコントラストを作って白い
 厚着でもしたように夏よりも羽毛が膨らんで見える

 今この鳥は夕日の方向に向かって飛んでいる
 白い羽に光が射し
 木々の幹も枝も陽の方向だけが明るい黄に染まる











 行くときに黄色みを帯びた翼は
 戻ったときにはただ真っ白になる






 ほのかな力ない冬の夕日にさえ
 鳥も木々も照らされていたのだ






 夕雲を背景に飛ぶ
 気のせいかもしれないが
 鷺は夏よりも木々の傍に居るように思える
 ただ水の上を飛ぶのではなく
 木々の枝と枝の間をくぐるように飛ぶ
 風のせいもあるに違いない


 そしてその先に
 他にまだ二羽

 色褪せた木々が冬陽に染まる
 その枝の上に








 数は著しく減ったけれど
 まだ仲間たちがいる

 どんなに弱くなった陽の光のなかであれ

 それがまだ陽光であることを証(あかし)する複数の鷺の姿だった


 あとどのくらいの数がここで冬を過ごすのだろう