
しばらくぶりに多くの人に会ったせいか気怠(だる)さがあった
時間の流れに沿わない自分を感じて磯伝いに歩いた
昨夜から冬の海は荒れていた
嵐の後のように浜には海藻や木切れ
もろもろの千切れた形があった
昨夜ほどではなかったが風はまだ強く
波は磯に打ち当たっては滑(ぬめ)るように砕けて倒れこむ
昼過ぎなのに沖の水平線と低い空は暗く見えた
そのぼんやりとした暗がりの遠くに奇妙に明るい光がある
沖の飛沫に光を投げる太陽の位置のせいなのか
打ち寄せて砕ける波にも沖の色合いが映っているようだ
鳥の影ひとつ見えない海
明るい日にも暗い日にも静かな日にも荒れた日にも
僕は生き続けてきたのだ海に深く慰められて
愚かな思いを生み出す脳を深海の静寂で
慄(おのの)き震える肺をその奥まで届く潮風で
この海のそばから離れる日が来るのなら
その日に僕はここに来て何をしようか
この身体の血潮の奥に海を取り込むことなく
別れを告げるつもりも別れるつもりもない
海なしに生きることの難しさをこれほどまでに感じたことは
この地に住むようになって未だかってないことだと確信する
これほどまでに
潮風と磯の匂いが肺腑の奥底まで流れこみ
僕の血を海で満たす
まだ前に行けと
響動(とよ)もす時の向こうまで