車窓 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある









  久しぶりに車窓から夜景の流れ過ぎていくのを眺めていた

  自分で運転しているときには景色は流れては行かない
  自身が道を街を光景の中へと進んでいくという感覚がある
  道も街も泰然自若としてそこに在り
  過ぎていくのは僕なのだ

  それなのに誰かが運転していて自分はただ
  車窓に座り左右に広がっている外を眺めているようなときには
  昼であれ夜であれ光景は瞬く間に後ろへと飛びすさる
  世界が飛び去っていくような感覚

  走行速度が速いからそう感じられるのだろうか

  いや速度によらず
  むしろ
  それは自分自身の中の
  時間経過の感覚なのかもしれないとさえ思う
 
  時間の密度が
  ハンドルを握って車を操っているという感覚があるときと
  ただ静かに座って運ばれていくときとで違うのだ

  おろそらくは
 
  生きるということにも似たことがあるのだろう
 
  過ぎ去る感覚
  それは関わりきれなかった
  あるいは関わりきれないでいることであるに違いない

  充ちた時と満ちきらぬ時
  

  街の灯は人々の灯だ
  その点滅は僕たちが何処にいて
  何をしながら眺めているかによって変わり
  異なって見えてくる

  何処かが確実に違うのだ
  
  遠い関わりで眺める街の灯の明滅と
  自分から進んでいく生の時間とは


  束の間その両方の時間を
  見ていたような気がする