「距離」を売っている店があったので行ってみた
いろんな「距離」が所狭しと並べられた棚
恋人との距離
家族との
故郷との
小さい頃と
幸せと
でも何で距離なんて売るのだろう
距離なんて買う人がいるのかなと思って聞いてみた
「ねぇ ご主人
距離なんて買う人がいるんですかね」
「そりゃ あなた いますとも
距離にも使い道がいろいろでしてね
あっちの棚も見てご覧なさい」
と言うのでそっちの棚を見に行った
喧嘩との距離
別れと
流浪との
死との距離
不幸せとの距離さえも
「ああ これなら分かる気がしますね
でもそっちの棚のは売れないでしょう?」
「いや それがそうでもないのです
怖いくらい幸せなとき
お買い求めになる人が」
「そうなんだ 僕はこっちの棚かなぁ」
そう言うと
店の主人が皮肉な笑いを浮かべて言ったのだ
「では 試しに『死との距離』をお買いになったら如何でしょう」
「そうですか お幾らですかね」
「大変お安くなってます」
「ええ これが安いの もしかして
『お代はあなたの魂で』とかじゃないですよね」
「いえいえ ここは100円ショップですから 100円で」
と言うのでポケットから100円を出し
買った「距離」の袋を開けてみた
メジャーか何かが入っているかと予想して
そしたら入っていたものは
小さなメモ帳と削りたての鉛筆一本で
「ええ これが『距離』?」
「はい そうですよ 皆さん
これがけっこう重宝すると仰ってます」
わけわからず
「じゃあ こっちのも買いましょう」
と『幸せとの距離』を買い求め
袋を開けて見てみれば
また 同じようなメモ帳と鉛筆が
「これって どういうことですかね」
そう聞いたら
「その紙一枚の薄さでいいのです
それに『幸せだ』と書いてみてください
どのように幸せなのなのかもね
そしたら少し静かな気持ちになって
紙一枚分
幸せとの距離ができるのですよ」
なんだか誤魔化されたような気がしたが
ついでだと思って聞いてみた
「じゃあ こっちの『死との距離』は
なんて書くんですかね」
「ああ そりゃちょっと特別製でね
あなたが死ぬ瞬間に
自分の死について表現する暇が
紙一枚分の長さだけ与えられるのです」
「はあ それで?」
「『はあ それで』って あなた
死にかけている人間が自分の死を語る
もうそれだけで
その人は死の恐ろしさから距離ができているじゃあないですか
『怖い』とひとこと言うだけだったとしても」
「なるほどね」
何とはなしに頷いて店を出た
道から振り返って店の看板を眺めたら
こんなことが書いてある
何事もそのままが良いのなら
ご来店お断りします
王様の耳チェーン店
距離屋 地獄極楽一枚堂
まあ確かに紙にでも書いて
川に流してしまったら
少しは幸せも痛くないのかもしれない
むろん
その他の苦しみもだが