鷺草の露 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある




  小さな野原で君を探した
  しばらく前から見えなくなっていた君を

  どこに行ったのか
  呼んでも答えようとしない影みたいに

  君は秋の午後
  蜻蛉の羽のように薄くなり
  やがて光に混じって
  見えなくなったのだ

  いったい誰が君をそんなに儚く造ったか

  自在に自分ひとりでも生きられる生き物を
  あたかも昼下がりの微かな草の香りのように
  してしまったのは誰

  もしかしたら僕たちが君の素肌にふれようと
  手を伸ばしたのを
  そんな習慣を知らない君が嫌がって

  鷺草(サギソウ)を濡らした露のレンズの向こうを覗いても
  真っ白な背中の後ろ姿さえ消え去っていた

  ああ夕闇にまぐれて僕は泣くだろう
  君がこのまま戻らなければ

  それとも夕月がかかる木の枝に
  風に呼ばれた姿して
  笑って座っている君に
  僕はまた遭うことができるだろうか

  クルプンウンクルの遠い愛
  霞草(カスミソウ)で編んだレースの服を着た君に








                鷺草も霞草も秋の花ではありません