
あそこでは暗く厚い雲の底が抜けて
雨が空にできた滝のように降っているのだろうか
物凄く降る雨には憧れというか愛着があるが
それが人に被害をもたらすのは悲しいし嫌だ
けれど自然に悪意はない
自然は文字通りあるがままでしかない
善意も悪意もそもそも意思もない
人間はいまだに自然を制御できない
それは当たり前といえば当たり前のことなのだ
人間は
銀河の中の一恒星系の一惑星に
ほんの束の間発生して
土地にしがみついて生きている弱い生き物にすぎない
象のような力と大きさも
鯨や海豚のような海における自由さも
鳥や蝶のような空の身軽さも
厚い革をも切り裂く獅子や豹の爪と牙も
それらを
何一つ持ち合わせぬ生き物だ
それはそれなりに
自分たちらしい生き方があるはずなのに
何を勘違いしたのか傲慢にも
自然を操れると思っている
そしてその安易な全能感で山を切り崩し
プロメテウスの火を永久に手に入れたと信じたが
火は揺れる大地と海に呑み込まれて崩れ落ち
家は豪雨の山に呑み込まれた
この何年かのあいだに
日本で世界で起きた出来事を見て
今もなお
人間は世界と自然をコントロールできると
そう言えるだろうか
我らは
なすすべもなく立ち尽くした人間だったのではないのか
せめて鯨を真似て船を造り
鳥を真似て飛行機を空に浮かべたところまでで
それ以上を望むべきではなかったのではないのか
我々は全能の神ではなく
人間の道を歩むべきではなかったか
特殊撮影でもされたかのような分厚い雲が
すぐそこにまで降りてきて水面を覗きこんでいた
日本を取り巻く気象は急激に変わりつつある
いやおそらくこの星全体の気象条件が変わりつつあるのだ
しかしその大きな変動は
人間のタイム・スパンを超えたところでは
一種の繰り返しに過ぎないのだろう
人間が徒にエネルギーを消費し
本来あるべき気象条件を汚していることは悲しいことだが
どのみち惑星レベルの大変動に
愚かな修飾を加えているだけだろう
そしてそれだけの力しか持たぬ
弱き者がいつまでこの星で安寧に暮らせるか
それは完全な未知数だ
それでも
我々の舟は
壊れたのではない
置き忘れられてもいない
舟はただじっと待っているのだ
今は誰にも気づかれない場所で
そう思えた夕暮れだった
雲を空のように青くしていった光が何かを
何も言わないままに伝えてくれたからなのだと
今は思う

