皐月の夜は | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 身体の中で
 夏が吠え始める皐月の夜は
 愚かな思考を投げ捨てて
 裸になれ

 冥き月の囚われ人
 
 焔を鎮めるために走らずにはいられない者たちよ
 どこまで走っても
 終わらぬ夜はお前を離しはしない

 どのように
 どのように
 愛そうと

 解き放たれることのない罠に縛られて
 夜は冷たい腕でお前を抱き
 愛撫し続けずにはいられない

 皐月の夜は風のテロル
 どこまで走っても
 凪がない風がお前を無慈悲に打つだろう

 どのように
 どのように
 愛そうと

 皐月の夜は終わらない

 身体の芯に燃えくる破滅を
 ただ受け入れて
 獣になれ

 意識が闇の底に堕ちるとも
 お前の熱い胸を
 夜が手放すことはない