香を焚く | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 香を焚く

 かの人の香りを真似て
 香を焚き
 胸に満たしてしばし酔う

 煙の満ちるは悲しい
 想いの不在を語りすぎ

 香炉の天蓋の
 柔らかき出口を
 幽かに立ち昇らせよ

 甘き香り揺らぎて
 一すじ二すじ
 絡み合い昇りゆけば
 部屋に流れる深き香りの
 やがて広がり
 消えゆくを見る

 人の子に生まれしは何のため
 見えなくなるものを
 甲斐なく追い求め

 香を焚く
 あたかも時を
 一時を弔うがごとく

 今し消えゆくこの一時を






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