春が美しいのは春が悲しいからだろうか
枯れ果てた老木の傍で芽吹く緑は
あっという間に伸び上がり青春を謳歌する
どの季節もみな過ぎていくのだけれど
その中でも春は過渡期の涼風が吹く季節
じっとしていられずに久しぶりに遠出して
日がな一日歩き続けたいと思い立ち
何を求めるでもなくただ歩き続けた
分け入っても分け入っても青い山
そう歌った山頭火は何を求めて歩いたか
山懐の渓谷はなぜ私を呼び寄せるのか
もとより木の匂い草の匂いの溢れるからか
枯れ朽ちた木の残骸と落葉の堆積の合間から
これからの若木が伸びる様に惹かれるからか
勢いづいて迸る水は清冽で激しく見えながら
忽然として止水静寂の水場をもたらし
咲き誇った桜の花びらが流れに落ちて
流れては瀬に絡み見え隠れしては
黒い土の上に横たわる
その様を見るとき胸に極まってくる感情を
私は何と呼ぶべきか
誇らしげに咲く花もあれば
ただ渓谷の一隅に時を抱いて静かに咲く花もある
迸る命の芳潤と時経た谷の静けさが
それほどまでに異なるものが何故
これほどまでに融け合い矛盾することなく
在り続けることができるのか
気の遠くなりそうな長い時間と
次々に育ちゆく束の間の生命の力を
なお分け入っても届かぬ場所に秘めていた谷
目を奪われ震えながら歩いた六時間余
ただ一人の人にも会うことなく
それは少し疲れた私にとって
腐葉土の底の清水のような天与の時間だった
信仰しひれ伏すことがあるのならば
この谷のすべてのものを我が神として崇めよう
山頭火の山も最初に見たときはこんなになだらかな山だったのかもしれない



























