蝉が鳴く | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 この日
 蝉たちはいっせいに鳴き始め
 著しく鳴いた

 過ぎ行く夏を惜しむにしては余りに激しく
 まるで世界が終わるのを見かねて
 じっとしては居られないとでも言いたげに

 灼熱の血反吐の如き

 けれど蝉たちは
 あの一時間前に
 冷たく息を飲むように
 一匹また一匹と
 おし黙り始め

 そしてとうとう最後の一匹が身体を震わすのを止めたとき
 確かに
 世界が終わった


 彼らに言うべきだったかもしれない
 無駄な警告は
 すべきでなかったと

 どうせ届くことのない声だったのだから

 行くべき者をして
 ただ行かしめよと