ギターの弦が切れたら張り替える
リュートもそうだ
でも弦が手元になかったら?
ガット弦なんて贅沢言っていられない
ときにはナイロンの釣り糸だって
この上なく良い音を出すこともある
切れやすいガットを
切れにくいナイロンで作ろうとした人がいて
ナイルガットという不思議な弦ができた
ギターは金属歯車式の糸巻で
調弦がしやすくなったということだけれど
リュートはあいかわらず木のペグで
ときにポッキリ折れたりもする
一本だけ形の違うペグを差すのが嫌ならば
十数本のペグを全部一緒に交換する他はない
エレクトリック・リュートなんてものを作る人がいて
その糸巻はギターみたいな歯車式だが
進化を止めた古楽器は
相変わらず木で作られ木で補修される
弦楽器の多分どれもが
緩やかで色っぽい胴体を持っていて
(馬頭琴は例外だな)
いずれにしても胴体で音を響かせる
人間の歌うたいも胴体がなければ
喉だけじゃ良い歌い手にはなれっこなくて
身体全部を楽器にして歌うのだ
ギターの胴体もそんなに強くはないけれど
リュートほどではないだろう
リュートの胴体は薄く曲げた板を何枚も
紙風船みたいにつなげて作る
だから
ギターなんかに比べたら嘘のように軽いのだ
もの凄く古い白黒の映画で見たんだと思うのだけれど
ギターを抱えて放浪する主人公が
誰かに襲われたんだったか
ギターを振り回すシーンがあって
あんなことしたら首が折れてしまうのじゃないかと思うのに
何故か相手がぶっ飛ばされる
リュートでそんなことをしようもんなら
首はともかく胴体が修復不可能な壊れ方をするだろう
でもその弱さ軽さが
天使の楽器と言われる音を作り出す
僕は一頃アンデスの空に広がるケーナの音に惚れ込んで
自分でも何本もケーナを作ったりしたものだ
葦笛というけれどパスカルの「考える葦」みたいにか細くはなく
竹だと言われたらそうかもと思うかもしれないケーナの葦は
カーニャと言ったと思ったが
これがまたリュートの胴体よりもまだ軽い
乾燥させてあるのでパサパサした感じ
それがあんな素敵な音を出す
材料は硬くて重い方がいい音がすると言って
鉄刀木や紫檀黒檀で作る人もいるけれど
僕はあの奇妙な軽さが好きなのだ
壊れない楽器があったとしたら
それはそれで凄いことだと思うけど
壊れやすいからこそ
そこに音が煌めいて踊りだすのだという気もする
人間の世界ももしかしたら楽器みたいなものなのかもしれない
なんでそんな話をするかというと
この頃新聞を読んでいて
なんだか美しい音を出す世界が
脆くも修復不可能な壊れ方でもするのじゃないかと
そんな気がときどきするからだ
戦争?
それもあるかもしれない
人間の世界で戦争がなかったときなんて
歴史のどこを探しても見つからない
でもその度に人は世界を修復し
悲しみを乗り越えてきた
でも戦争ではなく
戦争するのだって経済があり
良きにつけ悪しきにつけても
お金という奇妙な共通項があればこそ
今の世界は成り立っている
ダフネの国の経済危機がヨーロッパどころか
世界に飛び火して
資本主義経済を根っこから壊してしまったら
誰が音楽なんか奏でることができるだろう
今朝僕は
リュートの胴体が
紙風船みたいにペシャンコに壊れる悪夢で目が覚めた