山の上の猫 | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


 街を見下ろす小さな山の
 上にチシャ猫の口が笑っている
 大きな
 人よりも車よりも大きな口が
 山入端の薄桃色の夕べの空に

 なんと薄い黄色い唇の月だろう
 笑顔なのか冷酷な笑みなのか
 壊れた猫は愚かな存在からはほど遠く

 ただ愚かな人々の
 論理的な不整合さを笑う者として
 暗い雲の流れる中を
 見え隠れしながら浮遊する猫の月

 正しいと信じてやまぬ毎日の
 矛盾を消えゆきながら嘲笑う

 顔のない笑みだけが宙に浮く猫は
 身体なき者が感情だけを持つように
 在り得ぬことを見事に印象的な絵に描く
 キャロル独特の辻褄のあわない人生の
 意味なくきらびやかに光るシンボルで

 それでも
 世の愚かさに勝てもせず
 群れ居る車のクラクションに追いまくられて
 いずれは消えゆかねばならない
 哀しき猫なのだ

 その猫が耳まで裂けた口開けて
 苦笑いする
 春の宵

 どのような愚かで不整合な出来事も
 んでもありぃの現実に

 僕らの身体は生温かくなる