春の予感に | 不完全な切り紙細工

不完全な切り紙細工

 誰も聴く人がいないのに歌いつづける歌がある
誰も見る人がいないのに踊りつづける踊り手がいる
誰も読む人がいないのに書きつづけられる言葉があって
不完全な切り紙細工を幾つも幾つもつなげていけば
そこに何かの絵が生まれるものと願う鋏がここにある


君は
何を見ていつもの
その道を歩くのか

もうすぐ時がくれば
歩くことも減り

春の兆す机の上の日当りに
風が吹き

君は鳥になって
大きな羽を
手に入れる

遠くから
馴れ親しんだ道を
思い返す
いや
その時間もないほどに
すべては大きく変わっていくかもしれない

大空はもしかすると
思ったほど気ままな場所ではなく
風に吹き煽られて
とまどいに羽が揺らぐことも
変わる景色の彩りに
息がつまることだって
あるかもしれない

いつも夜の褥のなかでさえ
君の手にあった携帯電話も
新しくなり
新しい仲間も増えて
届くメールの数も増えるだろう

時がくれば

そうだ今は
その日のことを
その空を
この道とこの日々と
見比べ見比べして
少しばかりの不安を胸に
君は歩いているかもしれない

けれど
空が荒れても
風が唸り雨が君の羽を濡らしても

そうだ
君が君であることを
やめない限り

すべては今までどおり
君のものだ

仲間も誰一人去りはしない
笑って
胸を張り
その時を
君はきっと引き受ける

確かな喜びさえ胸に置き

だから
恐れるな
誰しもが今を過ぎ
新しい日を生きてきた

君もまた
そういう一人になって
自然な足取りで
歩いて行くだろう

僕らはみな
そういう君の出発を
心から祝福する