君は誰か
僕の横を歩いていく君は
僕の見る朝日と同じ朝日を見る君は
僕のポケットがふくらんでいても
わざわざ手を突っ込まずに
何が中に入っているかわかる君
僕の読んだ本を読んだことがあり
僕が歩いた道を歩いたことがある君は
僕が夕日に胸をつまらせるとき
夕日の中の川の土手を走っていく君は
街の灯の遠ざかるとき
一本のマッチに火を点けて
そこに小さな街を作り出す君
僕がいつもの駅で紙コップのコーヒーを飲むときに
香りをそっと吸い込んでから通りすぎていく君
僕が一枚の紙切れに書いて捨てた落書きを
拾って微笑んで読む君は
日々に疲れて行きなずみ
僕が明日を疎ましく思うとき
軽快なマーチを口笛で吹く君は
読みさしの僕の本に木の葉の栞を
知られずに入れていく君
僕がここで息をするとき
世界のどこか見知らぬ土地で泣く君は
僕が大声で笑って腹を抱える日
つまらなくて石を蹴ってみる君は
見る夢が僕の見る夢と同じではないはずの君
僕が走るとき力つきて立ち尽くす君
僕を見たことも声を聞いたこともない君は
あるいは僕を小さいときから知っている君
毎日どこかで出会う君
決して出会うことなくそれぞれの死を死ぬ君は
僕が穴の開いた靴を捨てるとき
どこかで子犬にパンを投げる君
美しく仕上げられた一枚の絵を僕が見るときに
荒れ果てた廃墟で小さな宝石を拾う君
波音に僕が時間を忘れているときに
一日のけじめと日記を書く君は
この小さな街を行き交う人のなかの君
この小さな星の上を一人歩く君
飛ぶ船に憧れて空を見上げる僕を笑う君は
一枚の花びらを大事そうに拾う君
いつかどこかで出会って話し
それからそれぞれの道を行くことがあるだろう君
あるいは僕とすれ違うことすらない君は
それでも
同じこの時に生きている君だ
そう
その君に僕は尋ねる
君は誰か
と