僕は24歳から独り立ちして東京の落合に住み、池袋西部の画材売り場で働き出しました。その画材売り場に、毎週のように林静一さんが画材を買いにやってきました。

僕は小学校高学年の頃にガロで林さんの「巨大な魚」を読み、異様なる力を感じて漫画家になることを決めたのです。同時に手塚さんが発行していたCOMも読んでいましたが、時代に合った垢抜けたCOMよりもガロの作品群に自分に近いものを感じたのでしょう。
しかし、その後暫くは、実際に漫画を描く事はありませんでした。

大学を中退して自宅で引きこもっていた20歳くらいの頃にようやく漫画を描き出すことになるのですが、いやあ~遠い道のりでした。それでも描き始めてみると、林さんの絵よりはつげ義春さんとAKIRAの大友克洋さんの絵を足したような感じの漫画になりました。漫画というよりは、好きに適当にいい加減に気に入った写真を見て、丸ペンで丁寧にカリカリと描いて、それにツブヤキを入れていくんですが、もうこれは漫画なんかではなく、ただの落書きでした。

おっと、脱線しました。いつものことですがw

その林さんが近くにいる。しかも、僕に画材のことをいろいろと尋ねてくるんですよ。まさに夢のようでした。ただ、林さんは人と接するのが嫌なようでした。

デパートあげてのバーゲンセールの際には、画材売り場でもワゴンにたくさん油彩やら水彩やらの絵の具を安く売ったのですが、ある日、ふと見ると、林さんが近くの柱の影からじいっとワゴンを見ていました。それがなんだか滑稽で、林さんほどの絵描きさんが何をしているんだろう?と思って、僕は林さんに「お徳なので近くでよくご覧ください」なんて余計なことを言ってしまったのです。

林さんはそれで気分を害したらしく、さっさと売り場を離れてしまいました。一流の絵描きさんに安い絵の具をすすめたのが失敗だったのでしょうか?それはいまもってよくわかりません。

その後も林さんは売り場に顔を出してくれたので、僕に対して怒ったのではないと思うのですがね。ただし、バーゲンセールのときは相変わらず、林さんは柱の影からワゴンを見つめているのでした。

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