もう10年も前になるでしょうかねぇ。あれは僕が前に勤めていた会社の仕事で、大宮の郊外にある野球場まで草野球の取材に出かける前日のことでした。僕は休日仕事になってしまうこの草野球取材が嫌いで、できれば毎回、何か言い訳をつけてサボりたいくらいでした。
その日は関東に、かなり大きな台風が西から近づきつつあって、翌日の野球試合は絶対に中止になるだろうとたかをくくっていました。そこで当日には釣り好きな会社の同僚たちと霞ヶ浦までバス釣りに行く約束をして帰宅しました。台風でも釣りには影響がないという発想はいかがなものかと思いますがね。
神奈川の自宅に帰って、野球の試合は多分、中止になるから釣りに行くことをかみさんに話すと「私も一緒に行く」と言い出します。こいつは頑固な奴ですから一度こうだと決めたら僕のいうことなんか聞くはずもない。仕方なく「連れて行くよ」と言って一緒に釣り仕度を整えて、釣竿やリールなどを車に放り込んでから、早めに寝ました。万が一野球大会が実施された場合にも対応できる様にカメラも用意しました。
僕たちは翌日になったばかりの午前1時に起きて、眠い目をこすりながら身支度を整え、車に乗り込んで一路、霞ヶ浦を目指しました。台風が近づいているから外は物凄い嵐で、走る車を強風に何度も揺すられて緊張しながらの道中でした。東名、首都高速、常磐道と乗り継いで、ようやく目的地の霞ヶ浦に到着したのは午前4時でした。
まだ辺りは漆黒の闇。僕たちは小さな漁港の駐車場に車を止めて、再び仮眠をとりました。かみさんは、すぐに高鼾。こいつはどんなところでも寝られるのです。台風は一層力を強めたようで漁港の船や周囲の樹木は大きく揺らいで、僕たちの乗った車もひっくり返りそうな勢いでした。
僕は眠れないので、近くの揺れる樹木を見ながら「絶対に野球大会は中止になってほしい」と願いました。午前8時に始球式が始まる大会が中止にならないと霞ヶ浦から大宮までの所要時間を考えると釣りどころではありません。そうなったらどうしようかなんて気の弱い僕はイライラして仮眠がとれるはずもありませんでした。
その時です。僕は暴風雨に煽られる一件の古い民家が目につきました。 叩きつける雨が民家の周囲を囲む垣根の木の葉をブルブルと震わせ動かします。か細い明るさを放つ電信柱数本の光が、震える葉の動きに合わせてギラギラと光ります。そしてそのギラギラは強風に煽られて、みるみる内に人型に変化していきます。
おそらく光の屈折によってできあがったであろうその奇妙なる人型は、いつの間にか江戸時代の幽霊画そっくりの〝足のない女性の幽霊〟になって、しかもかなりの高速で僕の目の前を飛ぶように通りすぎると、その民家の中にすーーーっと消えていきました。幽霊が消えたその後は、おそらく彼女がやってくる前の様に激しい風雨に垣根の葉がブルブルと揺れているだけでした。
僕は多分、人生二度目に目撃した幽霊の恐怖にしばらく身動きも言葉を発する事もできませんでした。体温さえ急激に下がってそれが助手席で熟睡するかみさんの寝顔を見て、体の芯から温まった様な、ようやく現世に帰ってきた様な喜びを感じました。それに気がついたのか、かみさんがはっと目を開け「どうしたの?」と聞きます。僕はその声で自分が夢を見ていたんじゃないのだという事を理解しました。
そのまま眠れずに夜が明けると、暴風雨は嘘の様におさまりました。僕は深くため息をついて、現世でも恐れていた事になりそうなことを悟りました。恐らく野球大会は開催されるでしょう。しばらくすると待ち合わせていた同僚たちの車が駐車場に入ってきました。僕は〝台風が通過したので多分、野球大会は開催されるだろうから、一時間だけ釣りをしよう〟と提案しました。同僚たちも納得してくれたので、僕たちは近くの漁港で釣り始めました。
この日の釣果は、同僚に45センチほどのブラックバスが2匹というお粗末さ。僕には魚の当たりすらありませんでした。
それから僕たちは霞ヶ浦で同僚たちと別れて、大宮の野球場に向かいました。しかし、あれは本物の幽霊だったのでしょうか?
その日は関東に、かなり大きな台風が西から近づきつつあって、翌
神奈川の自宅に帰って、野球の試合は多分、中止になるから釣りに
僕たちは翌日になったばかりの午前1時に起きて、眠い目をこすり
まだ辺りは漆黒の闇。僕たちは小さな漁港の駐車場に車を止めて、
僕は眠れないので、近くの揺れる樹木を見ながら「絶対に野球大会
その時です。僕は暴風雨に煽られる一件の古い民家が目につきまし
おそらく光の屈折によってできあがったであろうその奇妙なる人型
僕は多分、人生二度目に目撃した幽霊の恐怖にしばらく身動きも言
そのまま眠れずに夜が明けると、暴風雨は嘘の様におさまりました
この日の釣果は、同僚に45センチほどのブラックバスが2匹とい
それから僕たちは霞ヶ浦で同僚たちと別れて、大宮の野球場に向か