寛永元年(1624年)の頃、京都の東に〝鶴の林〟という墓地があった。噂では夜な夜な〝ウグメ(姑獲鳥/ウブメ)〟という化け物が現れて、赤ん坊の鳴き声をすると言われていた不吉な場所だ。

その噂は有名で、周囲に住む者でさえ夜ともなればそこに近づくどころか、自分の家の門や背戸に鍵を掛けて出入りする者もいない。

ある人がこの噂を聞いて「姑獲鳥などという化け物などいるものか。それでは某が確かめてやろう」と、もの好きな事を言う。ある嵐の日、彼は夜を待ってその噂の場所に出かけ、強い雨風に打たれながら不思議が起こるのを待った。

すると、夜の八時ぐらいに、白川という川の方から唐傘くらいの青い光が宙を飛んで彼の方にやってくる。青い光が彼の側まで来ると、噂通りの赤ん坊の鳴き声がする。意を決した彼は刀を抜いて、怪しい光に飛びかかって斬り落とした。

彼は、斬り落とした姑獲鳥らしきものに、さらにニ太刀を浴びせて動かなくなったのを確認しながら大声で「化け物を斬り落としたぞ、皆、であえ、であえ~!」と人を呼んだ。

周囲に松明を灯した人々が恐る恐る近づいて青い光の正体を見ると、それは大きな鳥のゴイサギだった。集まった人々は「つまらぬものを恐れていたものだ」と大笑いしながら帰っていった。

諸国百物語 巻五の十七 「岩波文庫版 江戸怪談集」下巻 参照

  • 姑獲鳥:妊産婦が子を生む直前に死亡したが、胎児が生きている場合に、妊産婦は母としての責任を果たしたいという怨念として残り、妖怪となる。子を抱いた姿で夜な夜な彷徨い歩く(飛ぶ)。「本草網目」では、中国地方にたくさんおり、人の命を狙う。毛を着て鳥の姿となり、毛を脱いでは女性となるとある。姑獲鳥は好んで夜に蠢いては人の乳幼児を攫う。

  • 渡部 克弘 図説「日本未確認生物辞典」柏書房刊 1994年発行


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