今月もまたたくさんのおもしろい本に出合いました。

とくに心に残った本は、星野道夫氏の「旅をする木」です。



旅をする木 (文春文庫) 旅をする木


始まりの章から、作者のアラスカへの思いに胸にこみ上げてくるものを感じながら読み進めていきました。


アラスカの厳しく美しい自然。写真は1枚もなく言葉で語られているのですが、クジラを待つベーリング海の静けさや満天の星空など、まるでそこに自分もいるかのように惹きこまれていきました。


なぜ作者がアラスカへ行き、アラスカで生きることを選んだのか。その答えも厳しく美しいものでした。『壮大な自然からある力をもらい』、悲しみや孤独をも受け入れながら、ただそこにある自然と同じようにまっすぐに生きて、風になっていく…。


『子どもを亡くした友人Oをこの入り江につれてきたい』


『絶対に語ることのない子どもの死、最愛の弟の死…ビルを見ていると、深く老いてゆくということは、どれだけ多くの人生の岐路に立ち、さまざまな悲しみをいかに大切に持ち続けてきたかわかるような気がしてくる』


友人Oは、入り江に行けたのでしょうか。  わたしもいつか行ってみたい…。


グーグルでキスカの写真を見たら、日本の戦時中の船(輸送船?)が錆びたまま残っていました。 日本人はこんなところまで行っていたのですね。

著者:星野道夫


人影花 (中公文庫) 人影花
 

初めての作者。怖かった…。ほとんど頭を使わず読んでいたので、最後に何が待っているのか想像できず、えっ!という結末でした。

『私に似た人』 顔が見えないというのは、余計に恐怖ですね。『返してください』 人の執着心の悍ましさ。 

『いつまで』は怖い部分もありますが、座敷童のようなちょっと愛おしさも感じました。怖くはないのに一番ゾッとしたのは『人影花』。人間は怖い…。 

短編集なので、これはこれで有りなんでしょうが、もう少し深さがあるともっと楽しめたかもしれません。

著者 今邑 彩


お菓子の家 (創元推理文庫) お菓子の家


スェーデン警察小説。単純なわたしは、犯人もわかっている、動機もわかっている、どうやって結末を迎えるのだろうと考えながら読んでいたのですが…。


警察官たちは、この結末にきっとわたし以上に驚いたことと思います。40年前の幼稚園でのいじめを、すっかり忘れて生きてきた人々と、そのことによって人生が左右され、片時も頭から離れなかった人。無関心で手を差し伸べることのなかった大人。提起される問題は今の日本にも通じるものがあるようです。


なぜこのタイトルなのか、解説を読んでもまだよくわからずにいますが、登場人物たちの家がもろいものでないことを願ってこのシリーズを楽しみたいと思います。

 ミステリーと同じくらいの量で警察官たちの私生活が描かれていて、北欧ならではの良さと問題があり、これも北欧ミステリーの特徴ですね。


著者:カーリン・イェルハルドセン




やがて哀しき外国語 やがて哀しき外国語


村上氏の考え方、人となりが伝わってくるおもしろいエッセイでした。おもしろいと思えるのは、共感する部分とそういう考え方もあるのかとと感心する部分がけっこう含まれていたからかもしれません。


アメリカという国とそこで生きる自分を冷静に、でも楽しみながら見つめて綴っています。差別や偏見を感じることもあると書かれていましたが、それも含めてのアメリカ、いえ、それ以上におもしろいアメリカということでしょうか。


日本はいいところがたくさんある国だけど、外国に行くと違う考え方もあるのだと知って、それぞれの良さを感じますよね。

著者:村上春樹


愛の夢とか (講談社文庫) 愛の夢とか


この物語はどこまで行くのだろうと、少しだけ不安な気持ちで読みました。愛とか夢とか、美しい言葉だけど、強く思いすぎると現実をとびこえて行きそうで、今立っている場所がどこなのかわからなくなりそうです。思いすぎること愛しすぎることの純粋さと切なさ。

著者:川上未映子


昨夜のカレー、明日のパン (河出文庫) 昨夜のカレー、明日のパン


生きていると必ず出会う悲しみや辛い出来事。そんな中でも、そばに気持ちを通い合わすことのできる人がいれば、焼き立てのパンのような温かさに少しだけホッとできるかもしれない、と素直な気持ちになれる作品でした。

表現や言葉がほんわかしているのに深く、こんなふうに受けとめて考えれば、自分をも相手をも愛おしんで前に進んでいけるのだなと、やさしく励まされているようでした。「パワースポット」の友情?いいですね。

著者:木皿泉


光媒の花 (集英社文庫) 光媒の花


静かで、読み終えた後穏やかな気持ちになれる作品でした。 怖ろしい場面もあるのですが、それさえ静かで、哀しさも温かさも静かで、だから光が人の思いになって辺りを包み、人と人が繋がっていくのだなと思いました。目を伏せるような強い光ではなく、手でそっと包みたくなるような淡く弱い光です。

 誰かを大切に思い、誰かを守ってあげようとする気持ちを持っているだけで、ささやかだけど人は幸せなのかもしれません。「遠い光」の先生が、ずっと先生でいてくれるといいですね。


著者:道尾秀介


花の鎖 (文春文庫) 花の鎖


母から子へ、子から孫へと繋がる話だと気づいたのは、物語半ばから。そこから、何か怖ろしいことが起きたのでは、と脈が速くなるのを感じながら一気に読んでしまいました。 

家族を愛する女性3人の強さと温かさ。そして、その家族の思いを守ろうとする矜持。 花の鎖は、悲しみや憎しみを超えて凛として生きる心の鎖、ということでしょうか。 

物語のあちらこちらに季節の花々が登場し、3人に寄り添っている男性もそれぞれに花と繋がっていて、やさしくおおらかです。 花屋の息子ガンバレ!は、余計なお世話かな。 

著者:湊かなえ


このたびはとんだことで 桜庭一樹奇譚集 (文春文庫) このたびはとんだことで 桜庭一樹奇譚集


「赤朽葉家の伝説」のようにはのめり込めず、時間がかかってしまいました。いろいろな雰囲気の短編6話。 

「赤い犬花」「五月雨」は、ここと、ここではないどこかとの境界線で暮らしていて、何かにこだわり、何かに取りつかれているような人々のちょっと悲しい話でした。 山陰の山奥には、まだこんな境界線で暮らしている人々がいるようで、怖くて一人では行けません。「モコ&猫」が好きです。

著者:桜庭一樹