そして閉店後、親父と鈴音さんがあゆみの事を聞いて来た。
「直也、あゆみちゃんの様子はどうだった?」
「あぁ、大丈夫。ちょっとした疲れだと思う。明日はちゃんと来てくれるさ。」
「そうか、良かった。」
「それにしても、今日は一段と客が少なかったな。」
「もしかしたら、あゆみちゃんがいなかったからじゃないか?」
「…。」
「え~っ?それって私だけじゃ魅力が足りないって事ですかぁ?」
「あっ、鈴音君…別にそういう訳じゃ…。」
「うふふ…冗談ですよ、オーナー。」
「ま、まぁ…それだけじゃないとしても、直也とあゆみちゃんがここへ来るようになってから、本当に客が増えて来ているからな。」
慌てる親父に対して余裕の鈴音さん、その会話自体は俺も聞こえているのだか…。
「…。」
「直也君、どうしたの?さっきから急に黙っちゃって。」
「えっ?あっ、いや…少し考え事を…。」
「あゆみちゃんの事か?」
「そ、そうじゃねぇよ。」
(『そうだ』、なんて言える訳無いだろ…。)
「夏休みもあと少しだが、最後まで仕事は集中してやってくれよ?」
「あぁ、分かってる。…それじゃ、掃除して帰るぜ?」
「あぁ、2人共お疲れ。」
「私も失礼します。」
家に帰った後、俺は部屋で修司の話を思い返していた。
(『あゆみがお前以外の奴と付き合うような事があったら…』か…。改めて言われると…何も言えなかった。)
その時、
〔♪♪♪…〕
雅恵からメールが届いた。
《今日、あゆみと修司が別れたって事、もう知ってる…よね?》
それを見た俺もメールで返信しようかとも思ったが、電話で話をする事にした。
〔♪♪♪…〕
“直也、わざわざ電話してきたの?”
「少し長くなるかと思ったからな。…今、大丈夫か?」
“そうね。こっちは大丈夫だよ。”
「今日の朝、あゆみがバイトを休むって聞いたから、あゆみに話を聞いたら、『今日、修司と話をしに行く』って聞いたんだ。バイトを休んでまでする話だから、結構大事な話なんだろうとは思ったけど…修司が店に来て、別れたって聞いた時はさすがに驚いたよ。」
“うん。私には朝、《今日、修司と会って『別れよう』って言おうと思う。》ってメールが届いたの。だけど私はそんなに驚かなかったんだよね。”
「どうして?」
“実は…あゆみ、前から修司と別れたがっていたの。”
「そうだったのか…。」
“でも、今の私達4人の良い関係を壊しちゃうんじゃないかって思って、なかなか言い出せなかったみたい。”
(修司が言っていた、『思い詰めたような暗い顔』ってのはそのせいだったのかもな…。)
「なるほどな…。修司は直接、店の方へ来て『これまでの4人の関係を壊すつもりはない』って言ってたけど…。」
“うーん…でも明後日、修司は『あゆみと会いにくいから行かない』って言うし…このままだと、そう簡単にはいかないんじゃないかって思うんだよね。”
「確かになぁ…。」
“それでね、私はあゆみからそういう話を聞いていたから、最近なかなか修司と直接会って話を出来て無かったの。だから明後日、私は修司と会って話をしてみようと思ってるの。”
「それじゃ…雅恵も来ないのか。」
“ごめん、直也。ホントは行きたいけど、ここでまた修司を1人放っておいて3人で遊ぶのも修司に悪いし…それこそ、本当に関係が壊れちゃう気がするから。だから私が出来るだけ上手く話をしてみる。”
「いや、こっちこそ悪いな。本来なら俺がそっちの役を引き受けるべきなのに…。」
“ううん。だってそれじゃ、あゆみがいつもの休みの日と変わらなくなっちゃう。明後日はあゆみもいつもと違う休みを楽しみたいはずだから…あゆみの事、私が知らない部分をたくさん知っている直也が、明日は側にいてあげてほしい。”
「わかった…そうするよ。」
“もうこの夏休み中は無理だけど、絶対また4人でどこか行こうね?”
「おぅ。」
“それじゃ、あゆみに『』明後日行けないから、直也と2人で羽根を伸ばすように』って電話するね。終わったらメール入れるから。”
『あぁ頼むよ。それじゃ、またな。』
“うん。おやすみ、直也。”
〔ピッ〕
約束通り、しばらくすると雅恵からメールが届いた。
《OKだよ。『だったら直也と思いっきり遊ぼう』だって。》
雅恵に了解のメールを送り、あゆみに電話を掛けることにした。
〔♪♪♪…〕
“もしもし、直也。”
「おぅ、明後日どこへ行く?」
“ほら、1年くらい前に隣の絶好町に【ハロー!ワールド】ってプールもある遊園地が出来たじゃない?本当はみんなで行ってみたかったんだけど、せっかくだから行ってみようよ?夏だしやっぱり泳ぎたいな。”
(…って事は、あゆみの水着姿が見られるかもしれない?…って俺は何を考えてるんだ?)
「いいな。じゃあそうするか。」
“今、私の水着姿想像したでしょ?”
「ぐっ…ゲホゲホ…な、何を言ってるんだよ?」
“ほら~図星だ。…直也のエッチ。”
「カンベンしてくれよ。」
(いくら悩んでいた事が解決したにしても、いきなりテンション高いな…。)
“あははは…。ねぇ…修司との事、もう聞いたよね?”
「あぁ。昼に修司が店に直接言いに来たし、さっき雅恵からも聞いた。」
“…やっぱり、ビックリした?”
「そりゃ、まぁ…な。」
“ごめんね?”
「どうして俺に謝るんだよ?」
“えっ?…そうよね…私何言ってるんだろう…?”
「何か様子が変だな…。」
“べ、別に何でもないよ。…それじゃまたお店でね、バイバイ。”
「お、おい…。」
〔ツー、ツー…〕
あっという間に電話を切られてしまった。
(元気は元気みたいだけど…何か変だったな。…まぁ、昨日に続いて今日もあゆみには大変な状況が続いた訳だしな…。明後日は本当に思いっきり楽しませてやらないとな。)
そして翌日『PIT・IN』に着くと、笑顔であゆみが待っていた。
[続く]
「直也、あゆみちゃんの様子はどうだった?」
「あぁ、大丈夫。ちょっとした疲れだと思う。明日はちゃんと来てくれるさ。」
「そうか、良かった。」
「それにしても、今日は一段と客が少なかったな。」
「もしかしたら、あゆみちゃんがいなかったからじゃないか?」
「…。」
「え~っ?それって私だけじゃ魅力が足りないって事ですかぁ?」
「あっ、鈴音君…別にそういう訳じゃ…。」
「うふふ…冗談ですよ、オーナー。」
「ま、まぁ…それだけじゃないとしても、直也とあゆみちゃんがここへ来るようになってから、本当に客が増えて来ているからな。」
慌てる親父に対して余裕の鈴音さん、その会話自体は俺も聞こえているのだか…。
「…。」
「直也君、どうしたの?さっきから急に黙っちゃって。」
「えっ?あっ、いや…少し考え事を…。」
「あゆみちゃんの事か?」
「そ、そうじゃねぇよ。」
(『そうだ』、なんて言える訳無いだろ…。)
「夏休みもあと少しだが、最後まで仕事は集中してやってくれよ?」
「あぁ、分かってる。…それじゃ、掃除して帰るぜ?」
「あぁ、2人共お疲れ。」
「私も失礼します。」
家に帰った後、俺は部屋で修司の話を思い返していた。
(『あゆみがお前以外の奴と付き合うような事があったら…』か…。改めて言われると…何も言えなかった。)
その時、
〔♪♪♪…〕
雅恵からメールが届いた。
《今日、あゆみと修司が別れたって事、もう知ってる…よね?》
それを見た俺もメールで返信しようかとも思ったが、電話で話をする事にした。
〔♪♪♪…〕
“直也、わざわざ電話してきたの?”
「少し長くなるかと思ったからな。…今、大丈夫か?」
“そうね。こっちは大丈夫だよ。”
「今日の朝、あゆみがバイトを休むって聞いたから、あゆみに話を聞いたら、『今日、修司と話をしに行く』って聞いたんだ。バイトを休んでまでする話だから、結構大事な話なんだろうとは思ったけど…修司が店に来て、別れたって聞いた時はさすがに驚いたよ。」
“うん。私には朝、《今日、修司と会って『別れよう』って言おうと思う。》ってメールが届いたの。だけど私はそんなに驚かなかったんだよね。”
「どうして?」
“実は…あゆみ、前から修司と別れたがっていたの。”
「そうだったのか…。」
“でも、今の私達4人の良い関係を壊しちゃうんじゃないかって思って、なかなか言い出せなかったみたい。”
(修司が言っていた、『思い詰めたような暗い顔』ってのはそのせいだったのかもな…。)
「なるほどな…。修司は直接、店の方へ来て『これまでの4人の関係を壊すつもりはない』って言ってたけど…。」
“うーん…でも明後日、修司は『あゆみと会いにくいから行かない』って言うし…このままだと、そう簡単にはいかないんじゃないかって思うんだよね。”
「確かになぁ…。」
“それでね、私はあゆみからそういう話を聞いていたから、最近なかなか修司と直接会って話を出来て無かったの。だから明後日、私は修司と会って話をしてみようと思ってるの。”
「それじゃ…雅恵も来ないのか。」
“ごめん、直也。ホントは行きたいけど、ここでまた修司を1人放っておいて3人で遊ぶのも修司に悪いし…それこそ、本当に関係が壊れちゃう気がするから。だから私が出来るだけ上手く話をしてみる。”
「いや、こっちこそ悪いな。本来なら俺がそっちの役を引き受けるべきなのに…。」
“ううん。だってそれじゃ、あゆみがいつもの休みの日と変わらなくなっちゃう。明後日はあゆみもいつもと違う休みを楽しみたいはずだから…あゆみの事、私が知らない部分をたくさん知っている直也が、明日は側にいてあげてほしい。”
「わかった…そうするよ。」
“もうこの夏休み中は無理だけど、絶対また4人でどこか行こうね?”
「おぅ。」
“それじゃ、あゆみに『』明後日行けないから、直也と2人で羽根を伸ばすように』って電話するね。終わったらメール入れるから。”
『あぁ頼むよ。それじゃ、またな。』
“うん。おやすみ、直也。”
〔ピッ〕
約束通り、しばらくすると雅恵からメールが届いた。
《OKだよ。『だったら直也と思いっきり遊ぼう』だって。》
雅恵に了解のメールを送り、あゆみに電話を掛けることにした。
〔♪♪♪…〕
“もしもし、直也。”
「おぅ、明後日どこへ行く?」
“ほら、1年くらい前に隣の絶好町に【ハロー!ワールド】ってプールもある遊園地が出来たじゃない?本当はみんなで行ってみたかったんだけど、せっかくだから行ってみようよ?夏だしやっぱり泳ぎたいな。”
(…って事は、あゆみの水着姿が見られるかもしれない?…って俺は何を考えてるんだ?)
「いいな。じゃあそうするか。」
“今、私の水着姿想像したでしょ?”
「ぐっ…ゲホゲホ…な、何を言ってるんだよ?」
“ほら~図星だ。…直也のエッチ。”
「カンベンしてくれよ。」
(いくら悩んでいた事が解決したにしても、いきなりテンション高いな…。)
“あははは…。ねぇ…修司との事、もう聞いたよね?”
「あぁ。昼に修司が店に直接言いに来たし、さっき雅恵からも聞いた。」
“…やっぱり、ビックリした?”
「そりゃ、まぁ…な。」
“ごめんね?”
「どうして俺に謝るんだよ?」
“えっ?…そうよね…私何言ってるんだろう…?”
「何か様子が変だな…。」
“べ、別に何でもないよ。…それじゃまたお店でね、バイバイ。”
「お、おい…。」
〔ツー、ツー…〕
あっという間に電話を切られてしまった。
(元気は元気みたいだけど…何か変だったな。…まぁ、昨日に続いて今日もあゆみには大変な状況が続いた訳だしな…。明後日は本当に思いっきり楽しませてやらないとな。)
そして翌日『PIT・IN』に着くと、笑顔であゆみが待っていた。
[続く]
「おい!起きろ…直也!」
「あ?あ、あぁ…親父か…。」
「どうしたんだ?かなりうなされていたぞ?」
「…少し嫌な夢を見たんだ。」
「それだけなら良いが…。そう言えばさっき、あゆみちゃんから電話があって、今日バイトを休むって言ってたぞ?」
「そうか…。」
(やっぱり昨日の事が…?)
「直也、見舞いにでも行ってあげたらどうだ?」
「いいのか?」
「月曜は比較的に客も少ないし、いつも休憩を取ってる時間くらいにでも来ればいいさ。鈴音君には俺から説明しておく。」
「それじゃ行かせてもらうよ。」
「あぁ。」
俺はゆっくりとあゆみの家に向かった。
しばらくしてあゆみの家に着いたものの、なかなかインターホンに手を伸ばす気になれなかった。
(あゆみもさすがに傷ついているんだろうな…、こういう時にはいつも通り接しないとな。1+1=醤油…よし、完璧だ。)
深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、インターホンを押した。
[ピンポーン]
“はい、どちら様ですか?”
あゆみが直接応答に出たようだ。
「宅急便でーす。ハンコお願いしまーす。」
“ぷっ…直也、顔見えてるよ?”
「ちぇっ、つまらないな。」
“あれ?お店はどうしたの?”
「親父が今日は昼からで良いからってさ。」
“そうなんだ?鍵開けようか?”
「ここで良いよ。長くいたら迷惑だろうし。」
“あはは…そんな事は無いけどさ。…で、どうしたの?”
「あぁ…今日、バイトを休むって聞いたから、もしかしたら昨日の事が…と思ってな。」
“ううん、そうじゃないの。…確かに昨日の事と少し繋がる所もあるんだけど、今日はちょっと修司と話がしたくて。あっ…でも、バイトをさぼるとかじゃなくて、大事な話だから…。”
(昨日の事と少し関係があって修司と話?…一体何だろ?)
「まぁ…体調崩したりとかって事じゃないなら良かったよ。残りも少ないから、明日からはちゃんと出てくれよな?」
“うん、大丈夫だよ。わざわざ来てくれてありがとう。”
「それじゃあ、もう店に行くよ。」
“今日はごめんなさい。明日からまたお願いね。”
「おぅ。それじゃあまた明日な。」
話している様子だけではあったが、あゆみの普段と変わらない様子に安心した俺は、すぐに店へと戻り仕事に入った。
すると夕方、修司が店へとやって来た。
「いらっしゃ…げっ、修司…。」
「直也、客に対して『げっ』はおかしいだろう?」
「いや、ついつい本音が…。」
「今日はお前に話があって来たんだ。」
「俺には無いんだが…。」
「まぁ、聞けよ。」
「まったく…なんだよ、アメリカの自慢話か?」
「そうじゃない…話があるのはあゆみの事だ。」
「…まぁ、座れよ。」
(今朝あゆみが言ってた話か…?)
俺は修司をテーブルへと案内した。
「…で、あゆみと何かあったのか?」
「あゆみ、今日は休んでるんだよな?」
「あぁ。」
「今日、あゆみと話をしたんだけど…いきなり『別れよう』って言われたんだ。」
(?!)
俺は驚きのあまり声が出なかった。
(修司との話って別れ話だったのか…。だけどそれが昨日の事と関係が…?)
「だけど、俺も少しずつ気が付いてはいたんだ。付き合い始めた頃は俺も舞い上がってて、その時のあゆみの表情とかあまり覚えていないけど、最近のあゆみは俺といる時、何か思い詰めたような暗い顔をしてる事が多かったんだ。雅恵と話してる時は凄く明るい表情をしてたから、俺と一緒にいるのが楽しくないのかなって感じてたんだ。」
「…。」
(確かに最近あゆみの様子が極端に違うように感じる事はあったけど…。)
「ところで直也、話は変わるんだが…お前はあゆみの事、どう思ってるんだ?」
「どう思ってるって言われてもただの…。」
「お前なぁ…もう俺の顔色を伺うような事をしなくて良いんだぞ?」
「…。」
(修司の奴、もしかして俺の気持ちに気付いてる…いや、気付いていたのか?)
それでも俺はあえて答えなかった。
「…じゃあ、俺帰るわ…。」
「修司…。」
「あっ、そうだ…あゆみと顔を合わせにくいから、明後日の約束だけど、俺行かないからな。」
修司は俺の方には向かず、小さい声で言った。
「お前、それって…。」
「心配すんなって。俺だって今までの俺達の関係を壊すような事をするつもりはねぇよ。」
「そっか…安心したよ。」
「ただ、せっかく良い思い出を作ろうとしてる中に気まずい相手がいたんじゃ、あゆみが素直に楽しめないだろう?」
「だったら俺も…。」
「お前は行け!」
修司は急に俺の方へ顔を向け、更に真剣な顔で言葉を続ける。
「そんな事をしたら後悔するぞ?…お前が何も言わないから、こっちも勝手な想像で喋らせてもらうからな。」
「…。」
「もし、あゆみがお前以外の奴と付き合うような事になったら、その時こそ俺は今の4人の関係を続けられないからな?」
「…。」
「じゃあな。俺はしばらく家で頭を冷やす事にするわ…。」
「…せっかく来たんだ、何か食って行けよ。なんだったら、おごってやっても良いぜ?」
俺のその言葉に修司は笑みを浮かべ、
「お前におごって貰うほど金には困っていない。それに、どうもここの料理は俺の口に合いそうにないからな。」
「おい、修司。」
俺は周りを見て、鈴音さんが厨房の洗い場へと入り、誰もいなくなったのを確認した。
「何だ?」
「殴っても良いか?」
「そんな事、聞くまでもないだろう?」
「そうか、それじゃ遠慮なく。」
〔ボコッ〕
鈍い音が店内に響いた。
「ぐふっ…お、お前…普通殴るか?…はぁはぁはぁ。」
「あれ?いけなかったのか?」
「こ…この場合『聞くまでもない』ってのは、ダメだと言う事だ…ぜぇぜぇ。」
「そうなのか…。俺はてっきり『OK』って意味だと…。」
「…だけど、こうやってお前と馬鹿な事をやってると、少し落ち着けたよ。」
修司は腹を押さえ、苦痛に顔を歪めながらも、すっきりした顔をして店を出て行った。
(なんか今までの修司とイメージが違っていたような…?あいつも今変わろうとしている所なのかも知れないな…。あっ…でも結局何もしないで帰りやがった。やっぱり…もっと殴っておけば良かった。)
[続く]
「あ?あ、あぁ…親父か…。」
「どうしたんだ?かなりうなされていたぞ?」
「…少し嫌な夢を見たんだ。」
「それだけなら良いが…。そう言えばさっき、あゆみちゃんから電話があって、今日バイトを休むって言ってたぞ?」
「そうか…。」
(やっぱり昨日の事が…?)
「直也、見舞いにでも行ってあげたらどうだ?」
「いいのか?」
「月曜は比較的に客も少ないし、いつも休憩を取ってる時間くらいにでも来ればいいさ。鈴音君には俺から説明しておく。」
「それじゃ行かせてもらうよ。」
「あぁ。」
俺はゆっくりとあゆみの家に向かった。
しばらくしてあゆみの家に着いたものの、なかなかインターホンに手を伸ばす気になれなかった。
(あゆみもさすがに傷ついているんだろうな…、こういう時にはいつも通り接しないとな。1+1=醤油…よし、完璧だ。)
深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、インターホンを押した。
[ピンポーン]
“はい、どちら様ですか?”
あゆみが直接応答に出たようだ。
「宅急便でーす。ハンコお願いしまーす。」
“ぷっ…直也、顔見えてるよ?”
「ちぇっ、つまらないな。」
“あれ?お店はどうしたの?”
「親父が今日は昼からで良いからってさ。」
“そうなんだ?鍵開けようか?”
「ここで良いよ。長くいたら迷惑だろうし。」
“あはは…そんな事は無いけどさ。…で、どうしたの?”
「あぁ…今日、バイトを休むって聞いたから、もしかしたら昨日の事が…と思ってな。」
“ううん、そうじゃないの。…確かに昨日の事と少し繋がる所もあるんだけど、今日はちょっと修司と話がしたくて。あっ…でも、バイトをさぼるとかじゃなくて、大事な話だから…。”
(昨日の事と少し関係があって修司と話?…一体何だろ?)
「まぁ…体調崩したりとかって事じゃないなら良かったよ。残りも少ないから、明日からはちゃんと出てくれよな?」
“うん、大丈夫だよ。わざわざ来てくれてありがとう。”
「それじゃあ、もう店に行くよ。」
“今日はごめんなさい。明日からまたお願いね。”
「おぅ。それじゃあまた明日な。」
話している様子だけではあったが、あゆみの普段と変わらない様子に安心した俺は、すぐに店へと戻り仕事に入った。
すると夕方、修司が店へとやって来た。
「いらっしゃ…げっ、修司…。」
「直也、客に対して『げっ』はおかしいだろう?」
「いや、ついつい本音が…。」
「今日はお前に話があって来たんだ。」
「俺には無いんだが…。」
「まぁ、聞けよ。」
「まったく…なんだよ、アメリカの自慢話か?」
「そうじゃない…話があるのはあゆみの事だ。」
「…まぁ、座れよ。」
(今朝あゆみが言ってた話か…?)
俺は修司をテーブルへと案内した。
「…で、あゆみと何かあったのか?」
「あゆみ、今日は休んでるんだよな?」
「あぁ。」
「今日、あゆみと話をしたんだけど…いきなり『別れよう』って言われたんだ。」
(?!)
俺は驚きのあまり声が出なかった。
(修司との話って別れ話だったのか…。だけどそれが昨日の事と関係が…?)
「だけど、俺も少しずつ気が付いてはいたんだ。付き合い始めた頃は俺も舞い上がってて、その時のあゆみの表情とかあまり覚えていないけど、最近のあゆみは俺といる時、何か思い詰めたような暗い顔をしてる事が多かったんだ。雅恵と話してる時は凄く明るい表情をしてたから、俺と一緒にいるのが楽しくないのかなって感じてたんだ。」
「…。」
(確かに最近あゆみの様子が極端に違うように感じる事はあったけど…。)
「ところで直也、話は変わるんだが…お前はあゆみの事、どう思ってるんだ?」
「どう思ってるって言われてもただの…。」
「お前なぁ…もう俺の顔色を伺うような事をしなくて良いんだぞ?」
「…。」
(修司の奴、もしかして俺の気持ちに気付いてる…いや、気付いていたのか?)
それでも俺はあえて答えなかった。
「…じゃあ、俺帰るわ…。」
「修司…。」
「あっ、そうだ…あゆみと顔を合わせにくいから、明後日の約束だけど、俺行かないからな。」
修司は俺の方には向かず、小さい声で言った。
「お前、それって…。」
「心配すんなって。俺だって今までの俺達の関係を壊すような事をするつもりはねぇよ。」
「そっか…安心したよ。」
「ただ、せっかく良い思い出を作ろうとしてる中に気まずい相手がいたんじゃ、あゆみが素直に楽しめないだろう?」
「だったら俺も…。」
「お前は行け!」
修司は急に俺の方へ顔を向け、更に真剣な顔で言葉を続ける。
「そんな事をしたら後悔するぞ?…お前が何も言わないから、こっちも勝手な想像で喋らせてもらうからな。」
「…。」
「もし、あゆみがお前以外の奴と付き合うような事になったら、その時こそ俺は今の4人の関係を続けられないからな?」
「…。」
「じゃあな。俺はしばらく家で頭を冷やす事にするわ…。」
「…せっかく来たんだ、何か食って行けよ。なんだったら、おごってやっても良いぜ?」
俺のその言葉に修司は笑みを浮かべ、
「お前におごって貰うほど金には困っていない。それに、どうもここの料理は俺の口に合いそうにないからな。」
「おい、修司。」
俺は周りを見て、鈴音さんが厨房の洗い場へと入り、誰もいなくなったのを確認した。
「何だ?」
「殴っても良いか?」
「そんな事、聞くまでもないだろう?」
「そうか、それじゃ遠慮なく。」
〔ボコッ〕
鈍い音が店内に響いた。
「ぐふっ…お、お前…普通殴るか?…はぁはぁはぁ。」
「あれ?いけなかったのか?」
「こ…この場合『聞くまでもない』ってのは、ダメだと言う事だ…ぜぇぜぇ。」
「そうなのか…。俺はてっきり『OK』って意味だと…。」
「…だけど、こうやってお前と馬鹿な事をやってると、少し落ち着けたよ。」
修司は腹を押さえ、苦痛に顔を歪めながらも、すっきりした顔をして店を出て行った。
(なんか今までの修司とイメージが違っていたような…?あいつも今変わろうとしている所なのかも知れないな…。あっ…でも結局何もしないで帰りやがった。やっぱり…もっと殴っておけば良かった。)
[続く]

)