「おい!起きろ…直也!」
「あ?あ、あぁ…親父か…。」
「どうしたんだ?かなりうなされていたぞ?」
「…少し嫌な夢を見たんだ。」
「それだけなら良いが…。そう言えばさっき、あゆみちゃんから電話があって、今日バイトを休むって言ってたぞ?」
「そうか…。」
(やっぱり昨日の事が…?)
「直也、見舞いにでも行ってあげたらどうだ?」
「いいのか?」
「月曜は比較的に客も少ないし、いつも休憩を取ってる時間くらいにでも来ればいいさ。鈴音君には俺から説明しておく。」
「それじゃ行かせてもらうよ。」
「あぁ。」

俺はゆっくりとあゆみの家に向かった。
しばらくしてあゆみの家に着いたものの、なかなかインターホンに手を伸ばす気になれなかった。

(あゆみもさすがに傷ついているんだろうな…、こういう時にはいつも通り接しないとな。1+1=醤油…よし、完璧だ。)

深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、インターホンを押した。

[ピンポーン]
“はい、どちら様ですか?”

あゆみが直接応答に出たようだ。

「宅急便でーす。ハンコお願いしまーす。」
“ぷっ…直也、顔見えてるよ?”
「ちぇっ、つまらないな。」
“あれ?お店はどうしたの?”
「親父が今日は昼からで良いからってさ。」
“そうなんだ?鍵開けようか?”
「ここで良いよ。長くいたら迷惑だろうし。」
“あはは…そんな事は無いけどさ。…で、どうしたの?”
「あぁ…今日、バイトを休むって聞いたから、もしかしたら昨日の事が…と思ってな。」
“ううん、そうじゃないの。…確かに昨日の事と少し繋がる所もあるんだけど、今日はちょっと修司と話がしたくて。あっ…でも、バイトをさぼるとかじゃなくて、大事な話だから…。”
(昨日の事と少し関係があって修司と話?…一体何だろ?)
「まぁ…体調崩したりとかって事じゃないなら良かったよ。残りも少ないから、明日からはちゃんと出てくれよな?」
“うん、大丈夫だよ。わざわざ来てくれてありがとう。”
「それじゃあ、もう店に行くよ。」
“今日はごめんなさい。明日からまたお願いね。”
「おぅ。それじゃあまた明日な。」

話している様子だけではあったが、あゆみの普段と変わらない様子に安心した俺は、すぐに店へと戻り仕事に入った。
すると夕方、修司が店へとやって来た。

「いらっしゃ…げっ、修司…。」
「直也、客に対して『げっ』はおかしいだろう?」
「いや、ついつい本音が…。」
「今日はお前に話があって来たんだ。」
「俺には無いんだが…。」
「まぁ、聞けよ。」
「まったく…なんだよ、アメリカの自慢話か?」
「そうじゃない…話があるのはあゆみの事だ。」
「…まぁ、座れよ。」
(今朝あゆみが言ってた話か…?)

俺は修司をテーブルへと案内した。
「…で、あゆみと何かあったのか?」
「あゆみ、今日は休んでるんだよな?」
「あぁ。」
「今日、あゆみと話をしたんだけど…いきなり『別れよう』って言われたんだ。」
(?!)

俺は驚きのあまり声が出なかった。

(修司との話って別れ話だったのか…。だけどそれが昨日の事と関係が…?)

「だけど、俺も少しずつ気が付いてはいたんだ。付き合い始めた頃は俺も舞い上がってて、その時のあゆみの表情とかあまり覚えていないけど、最近のあゆみは俺といる時、何か思い詰めたような暗い顔をしてる事が多かったんだ。雅恵と話してる時は凄く明るい表情をしてたから、俺と一緒にいるのが楽しくないのかなって感じてたんだ。」
「…。」
(確かに最近あゆみの様子が極端に違うように感じる事はあったけど…。)
「ところで直也、話は変わるんだが…お前はあゆみの事、どう思ってるんだ?」
「どう思ってるって言われてもただの…。」
「お前なぁ…もう俺の顔色を伺うような事をしなくて良いんだぞ?」
「…。」
(修司の奴、もしかして俺の気持ちに気付いてる…いや、気付いていたのか?)

それでも俺はあえて答えなかった。

「…じゃあ、俺帰るわ…。」
「修司…。」
「あっ、そうだ…あゆみと顔を合わせにくいから、明後日の約束だけど、俺行かないからな。」

修司は俺の方には向かず、小さい声で言った。

「お前、それって…。」
「心配すんなって。俺だって今までの俺達の関係を壊すような事をするつもりはねぇよ。」
「そっか…安心したよ。」
「ただ、せっかく良い思い出を作ろうとしてる中に気まずい相手がいたんじゃ、あゆみが素直に楽しめないだろう?」
「だったら俺も…。」
「お前は行け!」

修司は急に俺の方へ顔を向け、更に真剣な顔で言葉を続ける。

「そんな事をしたら後悔するぞ?…お前が何も言わないから、こっちも勝手な想像で喋らせてもらうからな。」
「…。」
「もし、あゆみがお前以外の奴と付き合うような事になったら、その時こそ俺は今の4人の関係を続けられないからな?」
「…。」
「じゃあな。俺はしばらく家で頭を冷やす事にするわ…。」
「…せっかく来たんだ、何か食って行けよ。なんだったら、おごってやっても良いぜ?」

俺のその言葉に修司は笑みを浮かべ、

「お前におごって貰うほど金には困っていない。それに、どうもここの料理は俺の口に合いそうにないからな。」
「おい、修司。」

俺は周りを見て、鈴音さんが厨房の洗い場へと入り、誰もいなくなったのを確認した。

「何だ?」
「殴っても良いか?」
「そんな事、聞くまでもないだろう?」
「そうか、それじゃ遠慮なく。」
〔ボコッ〕

鈍い音が店内に響いた。

「ぐふっ…お、お前…普通殴るか?…はぁはぁはぁ。」
「あれ?いけなかったのか?」
「こ…この場合『聞くまでもない』ってのは、ダメだと言う事だ…ぜぇぜぇ。」
「そうなのか…。俺はてっきり『OK』って意味だと…。」
「…だけど、こうやってお前と馬鹿な事をやってると、少し落ち着けたよ。」

修司は腹を押さえ、苦痛に顔を歪めながらも、すっきりした顔をして店を出て行った。

(なんか今までの修司とイメージが違っていたような…?あいつも今変わろうとしている所なのかも知れないな…。あっ…でも結局何もしないで帰りやがった。やっぱり…もっと殴っておけば良かった。)


[続く]