鏡を見てはいけない理由 | へっぽこハンター日記

へっぽこハンター日記

新米ハンターのコトワがハンティングした音楽、映画、書物や芸術一般について語ります。

『マロウボーン家の掟』を見ました。

旧作につき、ガッツリネタバレありますので、ご注意ください。

 

 

4人きょうだいのジャック(ジョージ・マッケイ)、ビリー(チャーリー・ヒートン)、

ジェーン(ミア・ゴス)、サム(マシュー・スタッグ)は、

母とともにイギリスから母の実家だったアメリカの田舎町の家に引っ越してきます。

体調をくずした母はそのまま帰らぬ人となりますが、

彼女は亡くなる直前、長男のジャックに、彼が21歳になるまで隠れて暮らすように言い遺します。

彼が21歳になれば、法的に兄弟の保護ができるので、

親を亡くした4人がバラバラに引き取られたりしないですむからでした。

母の言いつけ通り、母が死んだことは伏せて、独自のルールで隠れて生活するジャックたち。

彼らには恐れているものがあったのです・・・

 

 

 

ジャックが登場した瞬間、「スコ!」と呟いてしまいました。

『1917』でスコフィールド役を演じていた彼だから。

 

次男のビリー役は『ストレンジャーシングス』のジョナサン役のチャーリー・ヒートンだし、

長女のジェーン役は『キュア』や『サスペリア』のミア・ゴス、

そして兄弟と仲良くなるアリー役は『ウィッチ』『スプリット』『Mrガラス』などの活躍目覚ましいアニャ・テイラー=ジョイ!

 

若手の実力派が集まった感じで、

みなさんほんとうに素晴らしかったのですが、

お話はちょっと中途半端な感じでした。

 

父親は連続殺人犯で、投獄されていましたが、脱走。

そのことから逃げるために一家はわざわざイギリスからアメリカまで引っ越してきたというのに、

この家にはなにか化け物がいる・・・

 

断片的な彼らの会話から察するに父はどうやらすでに死んでいて、

その幽霊が出ると幼い末っ子のサムは思っているようです。

 

特に鏡からおばけが出てくるということで、

家じゅうの鏡について、外せるものは外し、大きくて外せないものは布で覆っています。

 

外部との接触は断ち、買い出しなどはジャックがひとりで行います。

アリーと束の間のデートを楽しむのもこのときのみ。

 

 

そんで、クライマックスで、

脱走していた父が実際にこの家まで追いかけてきて、一家を惨殺、

きょうだい4人で暮らしているというのは、ひとり残ったジャックの妄想だったとわかるのです。

 

鏡を見ないようにしていたのは、そこにはそばにいるはずのきょうだいが映らないから。

きょうだいはジャックの別人格のような存在になっていて、

布をかぶって恐る恐る鏡を覗いたサム(のつもりのジャック)が見たものは、

小さいサムのサイズではなく大きなジャックのサイズ、

それで彼は「おばけを見た」と主張するように。

 

4人でほぼ隠居状態で暮らしているにしては家が汚いな、

一日中家にいるんだから、家事分担できるだろうにと思ってたら、

ひとりであのデカい家に住んでたということだった・・・

そら行き届かんわな・・・

 

そのあたりの伏線の回収はなかなかよかったんですけどね。

 

でも、きょうだいを悩ませていた父の幽霊とやらは、

実はジャックそのものなのではないかと途中からずっと思ってて、いろいろ考えたりしていたので、

閉じ込められた屋根裏で父が生きのびていたという真実はちょっと・・・あれっ?って感じでした。

 

連続殺人鬼でガチめのサイコパスのこの父の描き方は、

きょうだいひとりひとりの丁寧な描き方に比べるとだいぶと雑に感じまして、

なんだこれって、ちょっと思ったん。

 

そもそも脱走している囚人から身を守りたいなら警察に保護を依頼すべきなのに、

国外逃亡しているというのは、

ひょっとして、連続殺人自体、父が犯人ではなく、ジャックが犯人なのでは・・・とまで考えたりしてたので、

よけいに肩透かしな感じ。

 

だいたい、こどもたちはちゃんと学校に通ったのかどうかもようわからん逃亡生活で、

21歳になったからってジャックがいったいどうやって生計をたてて、きょうだいの面倒をみるのか、

母はなぜなにも考えなかったのか・・・

 

そして、アメリカ引っ越し時に、それまでの苗字でなく、母の旧姓の「マロウボーン」を名乗ることにしたというだけなのに、

この映画のタイトルが「Marrowbone」というタイトルなのもなんか微妙・・・

マロウボーン家に代々伝わるなんとかとか、そういうもんでもないのに。

 

 

でもね。でも、そんなプロットの穴とか、

家の間取りの意外なわかりにくさ(煙突から見た内部、どこの内部か最初全然わからんかった)とか、

そんなことをすべて凌駕するくらい、

ジャックが気の毒すぎて、すごく落ち込んだのです。

 

もうすぐ成人するジャックはたしかに体も大きいし、頼れる長男なのかもしれんが、

彼だってこどもやないか・・・

簡単に「あなたがきょうだいを守るのよ」とか言い遺さんでくれ・・・

すごいプレッシャーやで・・・

 

そんで、きょうだいのことを「守ると約束したのに守れなかった」と泣き崩れる彼を見て、

すげえつらくなってさ・・・

 

あと、彼の妄想の中のきょうだいは、

すげえやかましくて、言い争いもするし、泣いたり騒いだり、それぞれ勝手なこともする。

みんなで楽しんだりもするけど、もめたりもする。

ほんとうに生き生きとしていて、

誰かひとりの都合のいい妄想とは思えないくらいしっかり個性がある。

それだけ彼がきょうだいを理解して愛していたということではないかと思うと、

もう、つらくてつらくて・・・

 

誰もいない庭をじっと見つづけるジャックの顔を見て、

あんな目に遭ったんだから、きょうだいの夢くらい見させてやってくれよ・・・と切実に思って、

心がしんどい、へっぽこハンターコトワでした。

m(__)m