誰も溺れてなんかいないのさ | へっぽこハンター日記

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新米ハンターのコトワがハンティングした音楽、映画、書物や芸術一般について語ります。

本日は少し無理して仕事帰りに、
ナショナルシアターライブの『誰もいない国』観てきました。

ネタバレあります。
\(^O^)/


スプーナー(イアン・マッケラン)はパブで知り合ったハースト(パトリック・ステュワート)の家でスコッチをふるまわれますが、
無口だったハーストの様子がだんだんおかしくなり、
ハーストは部屋を出ていってしまいます。

残されたスプーナーのところに若者ジャック(ダミアン・モロニー)と強面の男ブリッグス(オーウェン・ティール)が現れ、
彼らはハーストを守っていると話します。

そこへ夜着姿で戻ってきたハーストは、
さっきまで話をしていたはずのスプーナーが誰か知らないと言います…


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登場人物は四人、
舞台はひとつの部屋、
会話だけで次々に入れ替わるパワーバランス。
これぞ演劇の妙ー!
(*^^*)

そして出ていって戻ってくるたび人が変わったようになっているハーストは、
おそらく認知症なんだけど、
怖かったね…

得体が知れないって、ホラーだね…


コミカルで、ちょっと下品なネタもあって、
だいたい笑いながら見てるんだけど、
よく考えたらこの四人、誰一人としてほんとの素性がわからなかったんじゃないかな…


四人の、特にハーストのゾッとするようなバックグラウンドを想像するのは楽しそうだなーと思いました。

たとえば、この舞台が、
酔っぱらったふたりが部屋に入ってくるところからはじまっていれば、
ハーストとスプーナーはほんとにパブで知り合って今ここにきたばっかりなのだと信じられるんだが、
実際はそうじゃなかった。

部屋のドアの近くで落ち着かなげに立っているスプーナーと、
部屋のミニバーでスコッチを注ぐハースト。

いきなりこのシーンからはじまるから、
この部屋ははたしてほんとうにハーストの部屋だろうか、
ふたりはほんとうにパブで知り合ったのだろうかといろいろ疑うことができるのです。

ヘンテコな話だけど、
そういうのあれこれ考えながら見るのおもしろかった。


おまけとして演出家と俳優さんたちのインタビューがついてましたが、
演出家ショーン・マティアスが「いろいろ見方がある話だと思う。ひとつ言えるのはコミュニケーションを必要としている人たちの話だ」と言ってて、
たしかにそうだなーって。

劇中、ジャックが何度も「なんでこんなやつに話してやるんだ」と言うセリフがあって、
彼らのうちの誰かがよそものであるスプーナーに事情や過去を話すたびに、
ぶつぶつ言ってましたが、
まさにそうなんだよね。

お互い話は噛み合わないし、言いたいことを言ってるだけ。
相手の話に興味がなかったり、笑ったり、腹をたてたりしてる。
でも誰もこれをやめようとしない。

なんでこんな相手にしゃべってるのかと思いながらもしゃべるのをやめられない。

誰かに聞いてほしいから。

そしてなんとなく全員が行動という点において受け身だなと感じた。

誰かがなんとかしてくれないかと常に願ってるように見えた。


実際のところ、彼らが何者だったのかわからない以上、僕の印象は的外れかもしれないんだけど、
でもどの社会にも一定数こういう人たちがいるよなと思うんだよね。


自分の言いたいことだけを話して、
まわりのリアクションは考えず、
でも基本的に受け身。


自分しかいない世界にいて、
都合よく合わせてくれる架空の友達に延々話をしている。


そう考えるとやっぱりゾッとするねえ…


ハーストが何度も誰かが溺れている悪夢を見ると語っていて、
ふつうなら、誰か親しい人が溺れて亡くなった過去があるのかなと思うとこだけど、
このお芝居では、そんな過去などたぶんないんではないかと思いました。
で、そのほうが怖い。

誰も溺れてなんかいないのに、
誰かが溺れていると何度も主張する。
そういう人たちの話でしたよ。


それってあれだ、いかさま海亀のスープだ。
『不思議の国のアリス』のいかさま海亀は、起きてもいない悲しいことを想像して泣いてるんですよ。
文学者はそうなりやすいとつねづね思ってるんだ…


このハロルド・ピンターの戯曲の初演は1975年だそうで、
初演時を知ってるサー・イアンが当時生まれてもいなかったという若者ダミアン・モロニーさんをすんごいビックリした目で見るの、
めちゃかわいかったです。

ええ、サー、僕だってその年に生まれましたよと心の中で報告しました。
(≧∇≦)アハハハハハ


あと、舞台中継とかでカメラがクローズアップするの、邪魔に感じるタイプですが、これはそんなに嫌な感じはしなかったです。

「クローズアップ?!どうだった?!」とサー・パトリックが聞いてマティアスさんが笑いながら「大丈夫、素敵だったよ」と言うのもかわいかったです。
(≧∇≦)


サー・イアンとサー・パトリックのお芝居を観ることなんてなかなかできないから、
ナショナルシアターライブさん、ありがとうございますです!
゚+。(*′∇`)。+゚


できたら、おふたりの二人芝居『ゴドーを待ちながら』もお願いします、
へっぽこハンターコトワでした!
(*^^*)


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