相当、切羽詰っていたんでしょう。
あちらのご主人は、兄の連絡先をどうにかして入手し、
兄に怒りをぶつけてきたそうです。
その時の事は詳しくは聞いてませんが、
とても乱暴な口調で、場合によっては手段を選ばない。
家族に被害が及んでも文句言えんぞ・・・
と言う内容のものでした。
脅しですよ・・・。
そりゃね・・
法的に考えたらあちらのご主人がなさった事は
犯罪に値する事です。
裁判にかければ・・・どうでしょうか?
そのご主人・・・
地元ではワリと有名なお店のマスターでね。
ウチの父なんかより、遥かに人望の厚い人。
そんな方を敵にまわしたら、
長年生まれ育った土地にも行けなくなる。
親戚も、隣人も、全て。
きっと私たち家族を非難するでしょう。
あたしだって、幼い頃からの友達もいる。
みんなみんな、お世話になった良い方たちばかりです。
そんな方々を裏切って、
自分たちの借金さえチャラになればそれで良いのか・・・
そんな結論を出せた兄の神経を疑うほど、
やっぱりあたしは、
このままじゃいけない。
そう思ってた。
そんなある日、
夜中の0時過ぎくらいだったでしょうか・・・
兄から電話がありました。
「戸締りちゃんとしてあるか?
殴りこみに来るかもしれない・・・
お前のところは大丈夫だと思うけど気を付けてくれ。」
そんな事を言われ・・・怯えた。
ウチには男手もありません。
2歳足らずの娘と2人、どんなに心細かった事か・・・。
兄の家は奥さんと子供たちは避難させたと言ってました。
それから数日、何かが起きやしないかと、
いつもびくびくして生活をしました。
けど、やはりこのままじゃいけないと思った。
母と話し、兄とも話し、どうにか謝って許してもらおう。
そう事態が変化した時、
前々から考えていた1つの道を、あたしは提案しました。
それは・・・
そうです。
あたしの身の回りでお金を持っているのは
旦那のお母様しか居ません。
「1つ、提案がある。 全額はムリでも、旦那のお母様にお借りして、
それで許してもらおうよ・・・、
お母様から借りた分はあたしがこれから働いて返していくから」
しばしの沈黙の後、
「でもな・・それじゃぁお前が・・・」
兄の言葉はその後は続かなかった。
「そんな事をしたら、肩身の狭い思いをする事になるでしょ・・・
働くって言ったって、あんたの所だって、2人目ぐらい欲しいだろうし・・・」
母はそう言った。
「じゃぁ、他にどんな手があるの?
どっちにしたってお金は作らなきゃいけないでしょ?」
「そうだけどな・・・、まぁちょっと待てよ、
弁護士にもう一度話して和解の方法を考えるから」
兄が、そう言いました。
そして、それからさらに数日後、
兄が弁護士と相談した結果はこうだった。
とりあえずは相続を放棄する手続きを取り、
その上で、借りた相手1人1人全てに対して65%の返却をする。
兄は・・・
保証人となっていた方の元へ謝罪に伺ったそうです。
手をついて謝ったのかどうかはわかりませんが、
やはり、誠意を見せた結果、
わかっていただけました。
近所の方、といえばそれまでですが、
あちらも、兄が赤ん坊の頃から付き合ってきた仲です。
父との友情や、
その他の感情、いろいろ考えた末だったと思います。
ありがたい事に、情けを掛けていただきました。
感謝の気持ちでいっぱいです。
そして、返済に充てなければならない金額は総額700万。
兄が少し出すと言いましたが、それでも残りは600万。
あたしが用立てしなくてはいけない額・・・600万円。
「600万なんて大金、借りられるの?」
と、母は不安そうでしたが、
だめで元々です。
「わからない・・・もしかしたらムリかもしれないけど、
とりあえず話しだけはしてみるよ。借りられる事になったらお母さんも
挨拶にきてね。」
母は
「それはもちろんだけど・・・」
そういったきり何も言いませんでした。
その晩、あたしは、まずは旦那に電話で話しました。
大体の内容は、時々電話やメールで知らせてはいましたが、
まさか、あたしがこんな事を言い出すとは思っていなかったでしょう。
あの人は電話口で、どんな表情をしていたのでしょうか・・・。
あの人の返事は、
「まぁ、そうするしかないんならそうしたら?好きなようにしなよ。」
というものでした。
この言葉を聞いて、
あぁ、良かった。この人はやっぱり優しい人だったんだ。
そう感じる事があたしにはできなかった。
甘いでしょうか?
何百万という大金を、姑に借りようとしている妻に対して、
好きにすればいい・・・
その一言で片付けられるのって・・・
すごく寂しいし、もう少し、一緒になって考えて欲しかった。
この時に
「ウチの貯金で少しくらいはどうにかしようよ。」
そんな言葉でも一言、かけてくれてたなら・・・
少しでも、一緒になって考えてくれる気持ちが見えたなら・・・
きっと、今頃は2人目がいたりして、
それでも頑張って働きながら、少しづつでも借金返済を
あの家でしていたかもしれません。
今、これを書いていて、
やっぱりあたしは甘かったんだな・・・と思います。
いくら、愛し合って結婚したとしても、それだけのお金が関われば
人も変わる。
いくら愛して結婚した相手でも、
自分の母親に600万ものお金を要求しなきゃいけなくなる嫁の事なんて・・・
「もうしょうがないんだから、好きにしろよ」
と言い放つようになるんです。
それが、愛がなければなお更・・・
「ウチの貯金で少しでも賄えるなら・・・」
こんな言葉を、期待してしまった自分は、
情けなくて恥ずかしい人間だったんだ・・・。
今もそう思う自分がいる。
この時、父の死から既に1ヶ月。
お正月を迎える少し前の事でした。