東京ダービー2023・プロローグ
正直に言って、わたしは今でも反対だ。
ダート三冠路線の改革について、である。
新しいことを発表すると、何でも決まって反対する人間は出てくる。わたしもその一人……にはなりたくはないが、この件に関しては何度考えても好意的にとらえることができない。
来年から羽田盃と東京ダービーは中央馬に開放され、交流重賞(JpnⅠ)となる。現状、ダートの中距離路線は基本的に「中央馬の方が強い」という否定できない事実があり、おそらくこの2レースの上位も中央馬が占める公算が高い。日々競走馬を育てて地方競馬を支え、盛り上げてきた関係者たちは、大目標たるべき高額賞金レースで勝利するチャンスを突如として大幅に狭められたのである。
これまでの南関クラシックの在り方は、保護貿易的な性質を持っていた。JRAの所属馬が出られない、あるいは出てくるために南関東の厩舎に移籍しなければならないことが、馬資源の確保と関係者への還元に一役買っていたのだ。
以下は全くもってズレた話になるが、そもそもわたしは「交流重賞」があまり好きではない。出走馬間の実力差が大きすぎるが故に、地方一線級のメンバーは「実をとって」地元の重賞に回り、手当を目的に最後方を巡回してくるだけの馬が出走枠を埋めるような現状。これは「興趣あふれる競走」からかけ離れているのではないか。誤解を恐れず言えば、南関東限定、もしくは地方全国交流の重賞レースの方がよほど面白く、好きだ。
別に馬券だけが「興趣」というつもりは毛頭ない。「馬券」の存在が大きいことも否定しないが、それは置いておこう。スポーツにおける「興趣」とは何がもたらすのか。わたしが考えるに、「実力の拮抗」と、当事者の「勝利への意欲」だ。
大相撲の横綱が、小学生と取組をしたら面白いか? はたまた、メジャーリーグで大差がついて敗戦処理に野手が登板しているような試合は面白いか? これはNOだと思う。では、(プロに比べれば体格も技術も大きく劣るはずの)高校野球が熱狂的な愛をもって語られるのは? それは「勝利への意欲」が、思春期の2年3か月という極めて長い時間に裏打ちされた“パトス”が、前面に発露するからだろう。
いや、外野の独善的な批判はこのあたりで止めておこう。今年も、あるいは形が変わっても、東京ダービーは魅力的であり続けるに違いないのだ。
ハイセイコー記念でスローペースを自ら動いて打開したマンダリンヒーロー。それだけでも大器と呼ぶにふさわしい内容だったが、今春は前代未聞のアメリカ遠征を敢行。GⅠ・サンタアニタダービーで僅差の2着に食い込んだ。
そんな駿馬を、雲取賞で封じたヒーローコールがいる。手がけるは山口ステーブルに小久保厩舎。鬼に金棒、吉田沙保里にバズーカ。保護貿易などとしたり顔で言っていたこちらが恥ずかしい。自ら伏竜Sで中央に殴り込みをかけ、枠や馬場など恵まれない条件下で3着という結果を持ち帰ってきた。
この馬を中心に南関クラシックは回っていく……そう信じて疑わなかったわれわれの、度肝を抜いたミックファイアがいる。4戦4勝はいずれもワンサイドゲーム。例年以上にハイレベルなはずの後続15頭を、赤子の手をひねるように、歯牙にもかけずに千切り捨てた。
こういう馬が来年以降も現れてくれるのであれば、案外「新・東京ダービー」も楽しいのかもしれない。
挑戦がなければ成功はない。終わりがなければ新たな始まりはない。変革がなければ進化はない。
『最後の東京ダービー』を、まずは目いっぱい楽しもうではないか。ヒガシウィルウィンが、ハセノパイロが、ヒカリオーソが、エメリミットが、アランバローズが、そしてカイルが、わたしたちの背中を押してくれるから。
たとえて言えばロング・トレイン
風切り裂いて走るように
未来に向かってまっしぐら
突き進めば希望はかなう
立ち止まらない振り返らない
やるべきことをやるだけさ
南関東競馬に栄光あれ。
Be ambitious!