夫が中学の頃のこと。
女の子が欲しかった義母はその年の誕生日に、幼女のフランス人形をプレゼントとして義父に買ってもらった。
可愛いがリアルで、その子専用のソファも特注である。
義母はこの人形に名を付けて呼び、マリーアントワネットのようなドレスを着せ、きちんと洗濯もして着せ替えたりしていた。

夫の3兄弟はその人形を気味が悪いだの、夜中に歩いて来るんとちゃうか、こっち見てる…など冷やかした。
3人が大人になり、義母はこの人形を自分が死んだら誰が引き取ってくれるかを相談。
全員嫌がった。

義母が亡くなり、夫は気持ち悪いと言って倉庫に置いた。
私は義母が可愛がっていた人形だけに気になっていたが、家の中に置くのを夫は嫌がり、どうしたもんかと3年近く経過。
ところが…
数ヶ月前、スコットランドの夫の親友と話していた時、親友の20歳になる娘さんが「古いリアルなフランス人形を集めるのが趣味で、部屋の中が気持ち悪い事になっている」という話題になった。
古いリアルなフランス人形は決して安くはなく、働いた給料を貯めて16歳の時から増やしているのだという。

で、先日その親友家族が湖水地方に来たため会いに行ったついでに、夫は義母の人形を持っていった。
娘さんは喜んでくれ、後日御礼の手紙もきた。
その手紙に、実はあなたのお母様が7年前にスコットランドに来た時に、人形の事を話されていて、「息子達が気持ち悪がるから、誰も引き取ってくれない事が気になる」と言っていた事を覚えていて、私はその人形がどうなったのかと実は気になっていたのだけれど、欲しいと思われたら嫌だから、お母様が亡くなったと聞いたときに、そのことを聞けないままだった。
だから、そのお母様が大切にしていた人形を私に託してくれたことが本当に嬉しい。大切にします。
と書かれてあった。
義母は当時から、人形の引き取り手を気にしていたのだと思うが、私にお願いはしなかった。
今回偶然に、その人形がその娘さんに渡ったのである。

夫は私に「これで良かったよな?」と聞いた。
私は「そう思う」と答えた。
唯一の女の子である孫娘も「要らん」と言うし、可愛がってくれる女の子に渡ったのも縁だと思う。

義母が亡くなる8時間前、病院から電話があり「多分あと8時間程で逝かれると思います」と言われ、コロナ病棟に義母と会うため行った夫。
最後の言葉は「エマ(義母の犬)の事、ごめんね…」だった。
その後、8時間半後に義母は逝った。

犬はちゃんと面倒見ていますと言えるが、あの人形を倉庫に置いたままにしていたのが唯一の気がかりだった。
これで義母の大切にしていたものが、全て片付いた。
これで良かった。
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