「臨床の疑問を解決しよう会」ー姿勢から何を読み取るか | WillLaboのブログ

WillLaboのブログ

WillLaboは、東京の両国にある、リハビリスタジオです。
運営しているのは、作業療法士の山田 稔です。
気軽に、ヒゲ先生とお呼び下さい。
靴専門の理学療法士中田 翔が「既成靴の調整」によって、戻りづらい身体を保つお手伝いも始めました。

先日、研修会に参加している方から質問メールが来ました。
「先生はよく『ハムストリングスが短い』『TPの長さが足りない』とか言われますが、どのように評価しているのですか?見ただけでどうしてわかるのですか?」
という内容でした。

いい機会だし、自分の頭の中を整理する意味でもこちらに書き込んでみたいと思います。





まず、このような座位姿勢を見ます。モデルは、Will Laboのバイトさんで健常人です。多くの場合、正面の写真にあるように、架空の垂直線や水平線を頭に思い描いて、左右の対称性や傾きなどを観ます。

で、インターンの学生や若いセラピストは、そこからだけで何かを判断する、ってことをします。

例えば、「右肩が左肩よりも下がっている」とか「乳頭の位置が、右のほうが外にある」とかです。

もちろん、その見方は間違っていませんが、それだけでは「だから何??」って疑問が残ります。

巷の整体院であれば、その姿勢を治して「ほら、肩の高さが揃ったでしょ?」「体も真っ直ぐになりましたよ」ってことで仕事は終わるわけです。

が、しかし、我々リハビリテーション専門職が、関わっているのは、心身に障害を負って、日常生活がうまく遂行できなくなった方々です。そのうまく動けない状態をこの姿勢から、「何が問題で上手く動けないのか」読み取ろうってわけですからそう容易くはありません。

例えばですが、このモデルがこれから立ち上がろうとするとします。では、彼は上手く動けるのでしょうか?
もちろん、健常ですから立てないわけではありませんが、彼は彼なりの問題を抱えています。
「お金がなくって困っている」って問題ではなく(^_^;) 、彼の横からの写真から読み取れる身体の特徴があるのです。


山田は、彼の顎が前に突き出されていることが気にかかります。「彼は、なぜ顎を突き出して座らなければならないのだろう?」と。
この「顎を突き出す」という姿勢を中心にもう少しほかも部分も見ます。

すると、彼の背中がなんだか真っ直ぐすぎるような気がしてきます。さらに、膝を曲げて座っていることにも気づきます。

何度も言いますが、彼は健常なので、たまたまそのように座っているだけかもしれません。そう考えたなら、「足を少し前に出してください。」とか、「顎を引いてみて」とか、お願いするかもしれませんね。

ここでは、あくまでも“仮説”としての彼の筋肉の緊張状態を考えてみる、って態度で評価しますが、おそらくは、ハムストリングスの緊張が高いのではないか?と、山田は考えます。

なぜなら、「顎を突き出している」ってことは、だらりと力なく座るか、首の後ろ側の上の方の筋肉の緊張が高いことを意味するからです。そこで背中を見るわけですが、生理的な弯曲を呈するはずの背中が、あまり弯曲するでもなく、でも背中を丸めてだらしなく座っているわけでもありません。背中も、どちらかというと「緊張している」ように見えます。

ここで、さらに頭の中でいろいろ検討するわけです。
見えている現象は、「顎が出ている」「背中が緊張している」「膝を曲げて座っている」です。
これを、総合して「ハムストリングスが硬いとしたら?」という仮説を立てるのです。

なぜなら、ハムストリングスが硬いということは、股関節の屈曲(曲げることです)が難しい、ということです。
座って、背中をきちんと起こしておくためには、股関節が最低でも90°曲がる必要があるはずですが、ハムストリングスが硬いため、股関節を曲げることが難しければ、背中を一生懸命緊張させて座らなければならないはず。しかも、背中の緊張は、首の後ろの筋肉を引っ張り込むはず。

というように、どんどん推論を重ねていくわけです。

当たり前ですが、この時点ではあくまで推論、仮説ですから、実際には、ハムストリングスの緊張や股関節の屈曲の角度をきちんと確認する必要があります。

で、ハムストリングスが硬ければ、立ち上がる際にさらに深く股関節を曲げることが難しいので、彼は、まっすぐ垂直に近い形で立ち上がるのではないか?という結論が導き出されます。

まっすぐ垂直に立ち上がったって、誰も困りはしないのですが、「楽に、軽く立ち上がる」ことを目標とした場合は、「立てることは立てるけれど、大変そうだねえ」という結果を生むことが想像できます。

質問にあったように、「見ただけでどうしてわかるのですか?」は誤解です。あくまでも、見ただけでは推論にとどまっていますから、実際にきちんとROM(関節の動く角度)などを評価する必要があります。

話を簡単にするために、単純に関節角度や見た目の状況だけを述べましたが、実際に患者さんを目の前にした時には、もっと複雑に、例えば、「なぜハムストリングスを固くしなければならないのか?」「股関節周囲の筋の緊張はどうなっているんだろう?」「体が右にねじれているのと股関節周囲の筋には関係があるのか?」などなど、出来るだけたくさんの情報を収集します。

で、次回の研修会では、このあたりの動作につながる問題と、具体的にどのように解決するか、そのために知っておかなければならない知識、技術を参加される方々と検討し、ディスカッションしたいと思っています。

みなさんの明日の臨床を変えることはできませんが、この研修会に参加したら明日からスーパーセラピストになれます、なんて口が裂けても言えませんが、10年後にも役に立つ考え方を皆さんと共有したいと思っています。

「すぐ役に立つことは、すぐ役に立たなくなる」

慶應義塾大学の塾長であった小泉信三さんの言葉だそうです。池上 彰さんの「おとなの教養」に書いてありました。

この業界の池上彰になろうかなあ、って考えているセラピスト山田でした。


Will Laboは、東京は墨田区両国にあるリハビリスタジオです。
脳卒中片麻痺の方の、日常生活動作の改善、歩行、手の機能の改善
変形性股関節症の方の、痛みの軽減、歩行能力の改善に取り組んでおります。
お体のことは何でもご相談ください。


住所:東京都墨田区両国1-17-3-101
電話:03-5638-8008
Web:http://www.willlabo.com


研修会の詳細はこちらからFleche http://blog.livedoor.jp/rgimon/