Regi Boehmeさんの話を続けます。
「私の空間での動きは急速に向上していった。それにもかかわらず、私の固有受容感覚が新しい運動に追いつくためには、しばらく時間がかかった。
自動車のドアを閉めようとして体を傾けると車から転げ落ちてしまうというようなことがおこった。
肩の新しいアラインメントによって私の腕の長さは変化した。台所のテーブル上にカップを置こうとして、床に落としてしまった。
おまけに、以前とは筆跡が変わってしまい、2週間以上も自分の名前をサインできず、支払いを求める人々をいらだたせた。」
人間の運動・動作・行為は、非常にバリエーションのあるものです(もちろん、動物の運動全般がそうですが)。単純に、歩くことだけを考えてみても、病院のリハビリ室のような、障害物もなく、真直ぐな床で、良く周りが見通せて、などという環境が普通にはあり得ないことはちょっと考えれば当たり前のこと。
歩くとは、“家の中を歩く”ことであり、“アスファルトの上を車が来ないか注意しながら歩く”ことであり、“デパートのウィンドウショッピングを楽しみながら、人にぶつからないように歩くこと”であり…。
こんなことが、なんで何も考えずに自然にできるのか不思議なぐらいのことが、出来ちゃうんですねえ、動物って。
でも、この時に必要な技術というか能力ってどのようなものだと思います?
運動能力としての、立つ、歩く為の筋力や関節の運動性やバランスを取るための柔軟性や足と身体がばらばらに動きつつ、調和をもって一つの活動を遂行するための筋肉の協調性や…。これも数え上げたらきりがないくらいさまざまな能力が必要ですね。
でも、同時にそれらの能力に加えて《空間を測る》能力というものが必要だと思うのです。
こんな経験はありませんか?
小さなころよく遊んでいた公園に十数年ぶりに訪れてみたら、『あれー、こんなに小さなところだったけ?』って感じたことが。
そうなのです、動物は自分の身体の大きさや、腕の長さや、足の長さや、1歩の幅や、もろもろ、自分の身体を使って、その動く感覚を使って《空間の大きさ》を測っていると考えられます。
Regiさんが、車から転げ落ちたり、カップを落としたり、サインができなくなったのは、単に体に慣れないせいばかりでなく、これら、《空間で動くための》基準を見失ったからでもあると思うのです。
Regiさんは自分の状態を『固有受容感覚が運動に追いついていない』と分析しています。固有受容感覚ってなんでしょう?
皮膚の感覚が受ける、熱さ冷たさ、痛みやくすぐったさに加え、皮膚の歪み、ひきつれ感等の皮膚感覚、筋肉の感覚、関節が受ける圧迫の感覚やエンドフィールといわれる関節の動く限度の感覚などなど、あまり意識には登らないけれど、目や耳や鼻から得られる外の状態を感じとる感覚と比較してこれら身体の感じを、いまどのような状態に居るかを知らせてくれて、今、どんな運動をどんな結果を期待して動いているかを知らせてくれる感覚を固有受容感覚といいます。
これらは、感覚がなくなってしまったとしても、働く(というか代償が効くといったほうが正確でしょうか)、といわれています。
例えば、ラーメンを食べているところを想像してみてください。
スープの中で見えない麺を箸の先の感覚を頼りに、箸にひっかけて口まで持っていきます。口に入れるときは、目では確認してませんが、麺をこぼしたり、口から遠く離れたところに持っていくこともありません。
箸には感覚はありませんが、私たちはあたかも箸の先が自分の手指になったような感触を得ているはずなのです。
これが、Regiさんが言っている、『固有受容感覚が運動と一致する』の完成形です。
この完成形に至るには、もっと時間も、様々な経験も、新しい運動への挑戦も必要なことなのでしょう。
私たちセラピストは、勇気をもって新しいことに、新しい運動に、新しい感覚に常にチャレンジする姿勢を忘れてはいけないのだと思います。
その姿勢が、きっと患者さんの固有受容感覚を向上させる、運動と感覚が一致するための唯一の援助方法である、と手術後の痛みのある体を引きずって病棟の廊下を歩きながら、再確認しました。
痛みに負けて、動かないことを選択するのではなく、少々痛くっても、いろいろな身体の使い方を練習した5日間で得た、知見です。
WillLabo健康情報。
って、つまりは、退院しました、という案内です。
9月2日から通常営業に戻ります。どうぞ、お待たせしていた皆さん、ご予約ください。お待ちしております。
WillLaboは、東京の墨田区両国にあるリハビリスタジオです。
片麻痺の方や変形性股関節症の方、そのほか身体の障害がある方の自費診療を行っています。
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