夏は海(1)◇メンデルスゾーン:序曲「静かな海と楽しい航海」,ツェンダー | youtubeで楽しむクラシックと吹奏楽

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メンデルスゾーン:序曲「静かな海と楽しい航海」
ハンス・ツェンダー指揮 SWR交響楽団バーデン=バーデン



夏という季節は否が応にも人を開放的にさせる。そしてその気分は古来から人を海へ山へと向かわせてきた。そのような時期にピッタリの音楽ということで、今日はこのメンデルスゾーンの序曲を取り上げてみることにする。

この音楽はゲーテの「静かな海」と「成功した航海」という2編の詩から霊感を得て作曲されている。この2つの詩はもともと独立した別々のもののようだが、これを並べて音楽にすることを思いついたのはベートーヴェンだった。そしてメンデルスゾーンもこの偉大なる先人に追随した。但しベートーヴェンは合唱を用い、ゲーテの詩をそのまま歌わせたのに対し、こちらは純粋な器楽のための音楽となっている。ある意味で交響詩のはしりといっても良いかもしれない。

実際に聴いてみると、最初の「静かな海」の部分は長調ではあるもののこれから旅に出るという期待感は薄く、むしろどこか不穏な空気すら感じさせる。これはいったいどうしたことなのだろう?そこで、ゲーテの詩に当たってみると、その理由がとてもよくわかった。そこに綴られていたのは、海が凪いで風が吹かず、船が進むことができなくなった水夫たちの不安な心情だったのだ。筆者は「静かな海」という文言から、平和で穏やかな海を前にした安寧な気分を想像していたので、音楽がそれと食い違うことに勝手に驚いていたに過ぎなかったというわけだ。

続く「楽しい航海」はこの言葉通りの快活な音楽。ゲーテの詩では順風の中を船がスイスイ進み、やがて目的地の港が見えてきた喜びを素直に表現している。主題の快活なメロディーも、どこか、ワーグナーの「さまよえるオランダ人」の水夫の合唱を思わせる。続くイ長調で奏される第2主題は帆にたっぷり風をはらみ、海の上を
快速で進んでいく船の様子が眼前に浮かぶようだ。

すでに言い尽くされていることではあるが、作曲者19歳の時の作品ということにただただ驚くばかりである。もちろん音楽そのものがとても素晴らしいことに加え、この人の音楽はひねくれたところが皆無で、とても素直であることに感心する。育ちの良さがそっくりそのまま音楽に反映している。老ゲーテもそんな彼を可愛がり、「モーツァルトの再来」とその才能を高く評価していた。それに対し、ベートーヴェンについては、その才能に大いに敬意を払いつつも実際に彼と対面するとその気難しく暗い性格に辟易としたという。筆者にとり、メンデルスゾーンは比較的最近まで見過ごしてきた作曲家の一人だったが、こうして彼の作品を聴いてみるとどれをとってもハズレがなく、期待を裏切られたことは一度もない。これからさらに彼の作品をさらに深く聴き込んでみようと思っている次第だ。


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