#9 クリスマスの奇跡。


「その鍵な、俺のマンションのだから。だから淋しくなったらいつでも来いよ。」

「いいの?」


「お前の笑顔がみたいからさ。俺がお前守るから。お前は俺の部屋にいてくれ。」

斜め上方にあるケースケを見上げると上気して冬だとは思えないくらい真っ赤だった。

そして熱っぽく涙さえ出すんじゃないかというくらいの真剣な瞳で僕のことを見つめてくれていた。

こういう表情を感が極まってるっていうんだろうかー。
僕にはそれを上手く表す言葉を見つけることは出来ないけど、
ケースケの思いの熱さと、カラダの温もりがきつく抱かれた腕と胸板から伝わってすごく暖かいー。

そのことがなんだか凄く嬉しかった。

「あー。でも、高くついたなー。
先輩にこの借りは。あのひと一人身だしなw
だから。
コータも覚悟しとけよ、今夜は離さないぜ?もとは取らせてもらわないと。」

急におどけたように言って、僕の頭をくしゃくしゃと撫でた。


そうしてこう続けたんだ。

「ークリスマスの奇跡ってあるんだな。」

その声は、抑揚のない抑えられたトーンで
まるでケースケ自身に言い聞かせるような
感嘆としたそんな響きを持っていて。

そのとき僕にはそれが何故だか分からなかったけど。

「そうだねー。こうして会えたし。凄く嬉しいよ♪」

と、そう答えた。



「そうだ、俺。お前連れて行きたい場所があるんだ。きっとお前も気に入ると思う。」

ケースケが連れて行ってくれたのは現場のビルの屋上だった。
そこから見た街いっぱいに広がったイルミネーションの輝きを僕は一生忘れないと思う。

豪華な食事をするわけでも、夢見るようなデートをしたわけでもない。
でも、ただこんな瞬間を僕はずっと待ち焦がれていたんだと思うから。

好きなひとが自分のことを思ってくれて、そのことを確かに感じれた今日というこの日を。

それはきっと人生で最高の瞬間に違いないからー。

きっとこれはクリスマスにサンタクロースが起こしてくれた奇跡。
僕はこのときそう思った。

そして、ケースケから本当の奇跡をこのあと聞くことになるー。



この冬、サンタは確かにこの街にやってきていたんだということを。

あの小さな少年こそが僕らのサンタクロースだったんだー。


#8 思いがけない、プレゼント。


コータ!!

コーターーーー。

一瞬空耳かと自分で自分の耳を疑った。

でも、確かにケースケの声だ。

慌ててベランダに出て下を覗き見る。

アパートの塀の向こう車が一台入れるか
どうかの小道でケースケが両手を振ってる。

まさか来てくれるなんて思っても見なかったから。

夢?かと思うよ。
でも夢じゃなかった。

つねった頬が痛かったから。

「なぁ。下に下りてこいよ。車表に回しとくからさ。ーああ。そうだ。」



そう言って、何かを投げた。

取れるかどうか正直不安だったけど、ケースケが宙にほおりだしたそれは見事な放物線を描いて僕の両手のなかにすっぱりと収まった。

ナイスキャッチ、そう言ってケースケが満足そうに笑うのが見えて。
つられて僕の頬もゆるんだんだ。


「ケースケー。なにこれー?」

「鍵ー。」

それが鍵だということは僕だってわかるけど。
でもー。何の?

だから、何処のー?」

「いいから早く降りて来いよ。じきに分かるから。」

促されるままに部屋を出て階段を下りていく。
そこにはもうケースケが待っていて。

思わず顔がぱーっと緩んでいくのが自分でも分かる。
それは他のひとには見せることのない、
恥ずかしいくらいの満面の笑みだったに違いない。

ケースケがいてくれるから出来る笑顔だ。

「ありがとう。でも仕事は?」

「んー。コータからのメールのあと先輩から電話があったんだ。
予定が先方の都合で変わって、先輩の現場は一旦締めて明日からこっち来るってさ。だからお前に会って来いってさ(笑)。」

「っていうか先輩って僕のこと知ってるの?」

「知らないよ。先輩は俺に女がいるって思ってるから♪」

冗談半分にに笑いながらそう言いったあと、
僕をきつく抱きしめて囁いたんだ。


#7 確かに届いたよ、お前の気持ち。

『ケースケへ。

おつかれさま。
毎日忙しくてなかなか会えないけど、
僕はケースケに出遭えてよかったと思うよ。
あの日、僕に声を掛けてくれて「ありがとう。」

でも僕はずっと、これからも。

大好きだよ。

ps。仕事忙しいんでしょ?
でもムリしちゃだめだよ。

もう若くないんだから(笑)。

けど年が明けたら温泉にでも癒しに連れて行ってあげるよ。
だから、がんばれっ!!

こーた。』

ばかだなぁ、
あいつ。

寒空の下、どんな気持ちでコータはこれを書いたか。
手にとるように分かる気がした。

誰よりも無垢で、純粋で。
誰よりも淋しがりで。
だけど俺といたら我慢させてばかりで。

本当はもっと言いたいことがあったはずなのに。
俺が困ると思ってー。

『遭いたいって言えないんだろ?』
我が儘な気がしてさ。

一人凍えていたはずのコータに、心の中で問いかけた。

ー俺もたまんなくお前に会いてえよ。

いっそのこと此処から今すぐにでもお前のところまで駆け出していきたいくらいに。

ーお前の思いは確かに伝わったよ。

もしも、これをクリスマスの奇跡だと呼ぶのなら。

『それがおじさんの願い?』

耳の中で、もう一度ちびの声がこだました気がした。

俺にもクリスマスの奇跡をサンタクロースが起こしてくれるというなら。

ああ。そうだ。
俺は今日あいつに会う時間が欲しい。
コータのただ嬉しそうに微笑む。
とびきりの笑顔が見てみたい。

これが俺の願いだー。