こんにちはwildmonkeyです。

今回、また小説を書きました。
題材は"大晦日"です。


完全書き下ろし
wildmonkeyのSF小説 

「ジャンプ」ご覧ください。
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今日は大晦日

街は来年を迎える準備で大忙しだ。

一般的には家族で
新年を迎えるのが普通だろう。


40過ぎて独り身の俺はというと
同じく独り身で、親友の田中とこうして
居酒屋の座敷に座りダラダラと
呑んだくれている…。

話しをするのも疲れて、
居酒屋で流れているテレビを
二人して眺めていた。

あと10分もすれば、新しい年が来る。

「希望に満ち溢れた新年を迎えましょう」
なんてテレビの中で言ってはいるが、

俺達には"希望"などなく
只、新しい年を迎えるだけだ…

俺は残っていた、ビールを飲み干して、
明るい話題を探した。

「しかし、田中は今年すごいツイてたよな!」
 

「何が?」

田中は急に話かけられて
ビックリしたようだった。

「何がって"競馬"だよ!
当てまくってたじゃないか」

「ああ…まあ、覚えていたレースだけな」

「覚えていた??」

「全然だ…」

「そりゃないぜ!
俺なんか今年、全部外したんだぞ」


「俺に聞けば良かったのに」

田中は笑った…

今年、田中は嘘みたいに
競馬を当てていた。
特に大きいレースは絶対に的中させていたのだ。

「いいよなぁ…
お前は"希望"に満ち溢れた新年を
迎えられそうじゃないかぁ

本当クソみたいな一年だったわ…」


大きなため息をつく俺を見兼ねてか、
田中が話を変えた。

「なあ…小学生の頃にさ
新年になる瞬間…
23時59分から0時になる瞬間に
ジャンプして
"新年になる瞬間、俺はこの地球上に居なかった"
とか言う奴いただろ」

「おお! いたなぁ…だから何だ?ってやつな」

「あれ、飛んでるヤツはその瞬間、
地球上にいないんだよ…」

「ジャンプしてるだけだろ!って
ツッコまれてたよなぁ…」

「飛んでたヤツは地球上にいない…
つまり、
飛んでいたヤツだけ年を越してないんだよ」

「いやいや…はぁ?
何言ってんの?」

「だから、飛んでいたヤツは
年を越さずに旧年に残って
もう一度、旧年をやり直しているんだ…」

「フッ…
お前…飲み過ぎたか?」

俺は笑ったが、田中の顔は真剣だった。

「俺がなんで今年、競馬をことごとく的中させたかわかるか?」

「予想が当たったんだろ?」

「違う!知っていたんだよ」

「全部は当ててないだろ?」

「ああ、突然一年前に戻ったから
覚えている大きいレースしか取れていない」

「一年前に戻る…ってお前、大丈夫か?」

「信じないだろうな…
でも、俺は今年"2周目"なんだよ」

「ふーん…っていうか去年?…
いや"1周目の今年"に地球に居なくなろうと
ジャンプした事にビビるわ!
一人で何やってるんだよ」

俺は田中を茶化した。

「もうすぐ、年明けだ。
俺は、またジャンプする」

田中はお構い無しに続ける

「コレを見ろ」

田中は大きなボストンバッグから
手帳を取り出した。

「2周目は今年の競馬の結果、
あとはロト6、7の全ての結果をメモしてきた!」 

「マジかよ…お前ヤバイって…」

「信じないなら、もういいよ」

スカスカの大きなボストンバッグに
手帳を戻した。

「手帳しか入ってないのに
えらい大きなカバンだな」

「次に新年を迎える時はこのカバン、パンパンに
金を詰めて迎えるんだよ」

「田中…確かに俺達は"希望"のある新年は迎えれそうにないよ…だけどそれはヤバイから…」

居酒屋のTVから新年を迎えるカウントダウンが聞こえた…10…9…

田中がカバンを持って立ち上がった。

「一緒にくるか?"希望のない新年"を迎えるか
"希望の旧年"に戻るか!!」

「お前なぁ…40過ぎのおっさん2人が飛んでたらヤバイだろ」

テレビのカウントダウンは進む

3…2…

「じゃあな」

そう言うと田中はジャンプした。

テレビから新年を祝う祝砲の音が鳴り
俺はテレビに視線を移した。

視線を戻すと、田中は居なかった…


「マジかよ…」

俺はつぶやいた…










「痛ってぇ…」

座敷の下から田中の声。


「座敷から落ちてんじゃねーかよ!
酔っ払ってジャンプなんてするからだろ」

「3周目は成功したぜ!」

「まだ言ってんのかよ…とりあえず
"あけましておめでとう"」

「ああ、おめでとう!
ようやく"希望"のある新年を迎えられたぜ」

「"希望"があるのかはわからねーけど
今年も頑張ろうぜ」

「ああ」


そう言うと田中は
大きなボストンバッグを座敷に下ろした。


どういうわけか、
ボストンバッグの中身はパンパンになっていた。