ヤドリギ金子のブログ -835ページ目
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移転、反転

 先日、DVDで2つの映画を観た。一つは足立監督の「幽閉者」、もう一つは若松監督の「十七歳の・・・?」。監督が監督だけに、テーマがテーマだけに、かなり期待感を持ってみたけど、期待が大きかった分、落胆も大きかった。ただ、この落胆は物語の展開にチマチマとした工夫を凝らして、見え見えのエンターテイメントを繰り広げている今どきのふやけた映画に対する落胆とは質が違っているのは当然だ。
 現実へ切り込もうとする意志が空回りし、前者は思い入れが強すぎて自己陶酔ぎみ。B級ムービーのような意図的な「嘘っぽさ」を足立監督が意識して撮っているとするなら、これは傑作の部類に入るかもしれないが、自己を突き放して笑い飛ばす視点がぜんぜんないとするなら、これは「美しい失敗作」だろう。少なくとも、映像には自己を冷笑する視点は伝わってこなかった。
 後者は「がんばってるなぁ、オヤジ」という感じの映像。ドキュメンタリー的な手法とでも言ったらいいのか?即興的な演出が見事なまでに失敗している。時に「説教臭い」。若松監督にあったはずの破壊的要素が実に「まるく」なっている。だから「オヤジ臭い!」。私もオヤジであるので、その意味では共感するが、作品としてはいまいちだろう。
延々と自転車をこぐ姿と風景は良かったが、出会いのシーンに欠損が多い。例えば、針生一郎氏のそれは、いつだったか田村隆一が唐突に登場した映像と比較すると、とってつけたような説明臭さが鼻についた。
 日記ふうに・・・なんて表題をつけましたが、生活に何にもない、あるとすれば身体への気遣いばかりなので、こんな内容になってしまいました。
 あっそうそう、一つありました。クリスマスだからということで、ステーキを自ら焼いて息子に。久しぶりにうまく焼けた。そして、久しぶりに食欲らしきものがあった。食後の妻のチーズケーキも美味だった。
法を犯さなければ伝わらないというのに、治安の対象でしかないことがある。負けることを止めたときが敗退だ。十人以上が即死してはじめてニュースになる、国の道が広い、戦車のためだ。腐乱の臭いの中で一度死ななければ再生はない、などということを教えるような品の良さは馬鹿げている。情を杼べるように呪詛し、発語の呪性としていかにも並べる。例えば・・・、誠実な天皇が被爆する、被爆する、と。反社会性は悩まないから素敵だ。例えば・・・、貴方は誤爆している、あなた達は誤爆している、善意に満ちた微笑みとともに誤爆している、この場にしゃしゃり出て誤爆している、と。そのくらいの暴力はすぐ思い詰める。思い詰めたような羅列で、羅列で誤魔化す。何から何までぶよぶよなあの男は、防犯カメラを前にまたおかしなことを言っている。血の色をした日の丸のような、否、否、否か、贋金作りのように舌、舌、舌か、分裂でしかない平滑な空間で、諾、諾、諾か。係累者を言え。
  ※
風景の死滅に、故郷を慰安にしてはならない、とキム・スンヨルさんは車の中で怒った。音のしない静かな爆発音で、絵本を読む合間に声の隙間で「(パガ野郎よ、)こども軍よ、おとな軍へゲリラ戦で挑みなさい」とも言った。
  ※
恫喝する神もなく、微笑むばかりの王がいて、いつの間にかそうなるこのクニだから、誰か私に取り憑いてほしい、早く早く早く。醒めた目で観流し、ほらまた落ちた。ふわりふわりと人が降っていく。しない、しない、しない。血の匂い、血の匂い、血の匂い。さ・な・き・だ・に、なし、なし、なし。
  ※
平坦な戦場でも作るというのか?それならば、密かに身をやつしてみよ!どんなに哀しい眼をしても貴様の眼では何も終わらない。〈戦争〉はとっくに失われて、虐殺も観念も突端で〈美しく〉、奴らの言葉はここちよくて、上品だからおぞましい。巣はあるが、玄関口で倒れて足蹴にされ、栄光の悪事を自白したいが、何度も殴られて自白症に陥ってしまい、質問されてもいないのに次から次へと自白する、身体、から何が生えてくる?人類が気絶してしまうような素顔を見せてくれ。貴様は誰に匿われている?隣にいる深淵にいまだに気づかないまま、夕日に染められた肩を並べ、見つめ合うことはなく、同じ方向を向いて遠くを見つめ、哀しい眼をして、ただ肩を抱き合っている。(戸惑う息の震えだけが肩先から伝わってくる。)

溺死者が岸辺の闇で焼かれていた。赤い月は動かないまま闇を見つめていた、鯨の腹の中のランプのように。夢想とはもはやまどろまれるものではなく、引き裂かれるものとしてある。下敷きにされ、たちまち踏みにじられる底なしの哀しみ。あの殉教者には、どうしようもない空隙があるにちがいない。

真夜中の風呂場の蛇口から水滴が落ちるようなリズムで身体にやってくる、共有なしの哀しみがなければ(遠くを見ようとするなら哀しい眼しか用意されないはずだ。)、かろうじてでも私には戻れない。浮ついた哀しみがようやく沈みかける、遠方へとたゆたっていこうとする伴侶の瞳の中に、乾いているとは言えないまま弱って、弱って。湿りはてている、遠方は乾くどころか、本当は血の海だというのに、ゴムを燃やして煙幕にするという戦場だというのに、こんなにも非対称なのに、戦争だというのに、語尾のように、こんちくしょう、こんちくしょうと手足を蠢かせ、果てしない廃棄を継続して。果てしなさの中で/から離れ、手足を小さく動かしながら、平然と生きながらえ、余命をカウントしながらびくついている。頭の中がグワン、グワンと唸って、酒を飲んだわけでもないのに、酔った時に投げやりに振る舞う一年前の感じだ。憎しみすらもなく、弱々しく、こんちくしょう、こんちくしょうと震えるように小さく手足を動かしている。副作用のせいだろうか、本を開くと重油の臭いが鼻をついた。
抗癌剤の副作用に加え、風邪薬が倦怠感を増幅させている。だからといって、薬を飲まない訳にもいかない。
 バングラディッシュのサイクロンの被害が伝えられた。比較する。呑気な境遇を改めて思うと同時に、哀しい眼の船越桂さんの木彫を想起する。そう、哀しくならなければ何も見ることができないような世界になってきているのかもしれない。センチメンタリズム?
 いや、格差社会というより、格差世界だ。この世界内での圧倒的な非対称性!ただ哀しい眼で呆然と立ちすくむしかない? 脆弱で、言い訳めいたセンチメンタリズム。 
 「偽装管理職」というのがあるそうだ。「形式的に」は管理職にしたてておいて、実質は「ボロボロになるまでこき使われる」境遇にある人々・・・・。

 伴侶へ/から

  伴侶へ/から(一)

また寝台で
腐食ラジオを抱きかかえ
貴方の息が乱気流を起こす
だから
稲妻、と、書く、
だから
否! 妻、と、書く、
伴侶よ、
温順という致死量を
法とともに滅ぼすため
夜になると裏山の神社の境内を走り回る亡者のように
一閃の観念の稲妻として
君の魂へ垂直に降下する

あ、そこにも警告
ここにもほら、警告
夏空の熱にしがみつく
薔薇の骨
それを折る、折る
朝のヨーグルトのような
白くねっとりした漿液が
夏毛虫のように固まり
眩しい緑にはじかれ
捻れる、捻れる
私も這いずって
昼寝にはもってこいの、
発火する牢獄で
タランティスモ!









  伴侶へ/から(二)

声にならない背を向け
ひびわれた踵をそろえ
時に貴方は雑巾を絞る
体内の水が枯れるまで流れるのは
何千回何万回の、人情話?

声にならないから
背を向けて
踵をそろえたら雑巾を絞る
体内の水も体内の水も、 と
渦巻く私の怒濤よ、
夜が滑り降りる前に目覚めよ!




 
 伴侶へ/から(三)

向かう所が見えないから詮方なしに性急な
向日葵のようにタイヨウへと反り返り
水をごくごく飲んで夏に枯れる?
手練手管で腐るのもいいが
直立したまま枯れる?
かじかむことなく
この野からあの野へ
峠に立つように

真夜中に枕元を一匹の青蛙が通過しました
私の影につつまれた彼は
畳の上で鳴かずに腹は膨らませ
跳ばずに立ち止まりました
裸の私は大きく深呼吸をし
手づかみで彼をベランダから出し
ついでに月を仰ぎました
胸元の産毛についた汗が
月の光を吸い取っていました
垂直の滴の輝き?
月の光の分だけ
あなたは灼熱へと私を舐めなさい
  
   伴侶へ/から(四)

嫉妬しても無頓着に続ける影へと小走る
ダムの決壊、決壊
溢れる水のような泣き崩れから
逃れようとしても
ささくれる抽象はついてくる
決壊、決壊、決壊
ステップ、ステップ、ステップ
死に場所へ、のように唾を吐き
前触れなしに不用意に決壊しつづけるから
さらに根元へむやみに吐く
樹上のつくつくぼうしが拾う
「つくつくほーし、つくつくほーし」
やがて唐突に止まり
そして、落ち
ひくひく、引きつり
動顛せよ!



口腔の奥でばかり笑うあなたに
北向きの玄関の
敷居を越えた
低い風が吹き付ける
それでもあなたの笑いが
軽快に砕かれないのなら、
まず下足箱の黴を丹念に磨きなさい
次に
何もない板張りの玄関の壁に
複製画くらいは掛けなさい
二枚の紙片であなたを二重にして遊びなさい
すなわち
表面にはベンの「少年の日の思い出」を
その下にパウルの「死の天使」を
そっと隠して止めなさい
四つの画鋲
四つの星
どこにもない本当の題です



   伴侶へ/から(五)

半睡の薄目を開けつつ
身を委ねる
乳飲み子の臭気が、
緩慢に鼻孔に侵入し
火照らない頬が
じわじわ火照る。
獣の気配、
獣の気配!
忌まわしさが無方向になるなら、
簡単に打たれそうな顎を、
打たれやすいままできるだけ上げたまま、
俯瞰を拒否するささやかな学習の端緒として、
加担せよ!

貴方にも口うつしで伝えます
まだ無垢に
口をすぼめる初めての母のように
烙印のような楽観はまだ衰弱していません
目覚めることに無関心な子の午睡です
国境線がこの蟀谷にも引かれてしまうとしても
岸辺に佇んで思い出の言葉を
貝殻のように一つ一つ拾いあげては流し
海の香りにひたる老人のように
結界への嗅覚を確かめるため
ひくく細くつぶやきます
生温い風が吹いて
ここちよい夕暮がやってきます










   伴侶へ/から(六)

時にあなたは「私はいる」といってアルバムをめくり
子の写真をトランプのようにスパスパ切りながら
張り付け、 る 
カレンダーの混乱へ、  と
「哀しむな、 そ、 そ
 仮にも母です。」

まだ土のついた野菜篭には
観念の本を詰めなさい
そして、出てこれないように用心なさい
ただし怒りを共振させるときは
出てくるにまかせ
その取り出す手を一瞬だけ鐘楼にしなさい
たとえ手であっても
おもひはおもてに他なりません



 伴侶へ/から(七)


「謀られたな」

(すべてを言ってしまうことに理解の根はあるのか、
いわずに留め置くことに結果としての理解があるのか。)
攻撃の人の皇国からの因縁を理解せよ
伴侶の啜り泣き、慰め
仕掛けられては右往左往の白鳥へドライブ
灰色のレダの前で何回来ても何度も記念撮影
記憶力抜群の伴侶はよく本を読む
忘却と自動車免許
玄関入ると国家の理屈
老人と奇妙に呼応する青年の独言
神社の階段の片隅にうっとり微笑む春の猫に
遠く、
つぶての音

霧につつまれた湿地から
ぼんやりと現れた
遺言執行人の
皮膚という皮膚はひび割れ
ぽろぽろぽろぽろ剥落してゆく
その乾いたひとひらひとひらが
貴方の前で花びらのように舞う
隔たりにこそ巻き込まれよ
と君はいい
こちら側の在り所を捜して
忘却なしには楽しめない私に
国家のように
最後は自暴自棄の
じゅんすいな愛を洗脳する
遅れてきてどこにもいない・いる
死者と国境
その隔たりにこそ巻き込まれたい
たとえ床を分かち合っても
離れているから
君が伴侶だと、言いうる人よ
ただくるみこまれて立っていよ!

 

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