晩夏、万事快調                                | ヤドリギ金子のブログ

晩夏、万事快調                               

 

欠落の周辺の花弁が 見たい

のっと首をのばし

さてさて どれどれ

いいわけがましく尾ひれをつけて

夏の雷鳴に貫かれたまま棒立ちし

晩夏の構えだ

園庭でさざめく幼子たちの笑い声、

 

緩慢な稲穂のそよぎ、

黙したまま受け容れることをすべてにした

 

無言が考えられるかぎり

終わりを持たない

去りつつあって それでも

去ることは 決してない

不眠も、死への恐怖も、いびつにうすらぎ

万事快調!

 

しかし、それが良くない

いったい身体の奥底に何が根づいたのか?

潮が引いて 恐怖もともに消えていく

囲う記憶のみなぎりによって

いとも簡単に湧いてしまってしたたり

頬に透明の亀裂がはしり

一瞬だけ垣間見えた

 

あの驚愕がぼやけていく

だから、快調は良くない

薄闇や臭い、

消灯後の見回りの懐中電灯が放物線を描き

救急車がやってきてサイレン、

そして、ときたま隣や向かいから聞こえた嗚咽やため息を

 

灼熱の手でさしのべようとするために

冷徹に乾ききろうとし

反転させて世界にあらがうには

この私が万事快調で良いはずはないのだ

 

すべて落下する、

郷愁を拒み 森が血を流す

秋へ