6・木 履 ・ Namak-Shin ー郡山弘史ー
透明な理智の青空は層雲を忘却する
最早やどんな「雨乞ひ」も役立たない季節である
同志よ
唇を噛んで祖先の木履を踏み鳴らさう
歪める天體への憤怒を衂れた虚無の痩脚でたたき抜
かう
てろり・ずむ・ずむ・ てろり・ずむ・ずむ・
「Namak-Shin」とは朝鮮民族の伝統的履き物=木靴のようです。「衂(れた)」とは「ちぬら(れた)」と読む。
季節は真夏であろう。雲一つないカンカン照りの青空。じりじりと肌を焼くような暑さであるから、なおのこと「憤怒」は、底なしの悲劇(「衂れた虚無」)を抱えて、木靴を踏みならす音の高まりとともに上昇し、沸騰する。これは、単に日照りへの憤怒などではあるまい。そのことは、当然ながら、最後の一行が、重く重くのしかかってくるリズムを刻んで示している。ひらがなで、しかも、あえてふたつに分断し、その後半を反復させる、このリズム。木靴が焼けた大地を踏み鳴らす音と呼応している。
読み手に、宗主国の一員であった読み手に、突き刺さってくるような詩だ。植民地にあって、植民者として、朝鮮の人々とここまで哀しみを共有しようとした詩人がいったいこの時代に何人いただろうか?